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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.1.1 ■■■

田鰻の話

魚 or 黄/田鰻[タウナギ]/Swamp eelは"イケル"食材集として、「魚 (補遺)」で取り上げた。[→]
名前はウナギだが淡水魚である。・・・

鄲縣侯生者,於麻池側得魚,
大可尺圍,烹而食之,發白復K,齒落更生,自此輕健。
 [續集卷八 支動]

なかなかの滋養食材らしいゾとの指摘である。

沖縄に棲息するのは別種の可能性もあるが、マ、似たようなものだろう。メニューに載っているから、それなりに食べられているようだ。田圃がある地域なら、いくらでも棲んでいそうだし。
もちろん、本州は田圃だから沢山育っていておかしくないが、鰻が御馳走の社会であり、無視されてきたのだと思う。蒲焼向きではなかったせいもあり、ほとんど耳にしない魚である。全く知らない人も多かろう。
しかし、大陸では真逆。油と湯(スープ)料理にすると絶品な食材は褒め称えられるのだから当然であろう。従って、田圃が多い地域では必ず独特な名物料理と化す。

その人気のほどは名前を見てもわかる。
とは、旁を縁起かつぎで入れ替えた異体字なのだ。もともとは。こちらは、日本ではウツボに当てられているので混乱しがちだが。

ともあれ、人気食材なので、「卷七 酒食」でも取り上げられている。
そうなれば、当然、産地とか調理の話と思ってしまうが、これが全く違うから愉快だ。半ばオチョクリとくる。しかも、2ツも収載されており、成式が気に入った話であることがわかる。

その1ツ目。
梁の文官だった何胤[446-531年]の話。好学で敬虔な仏教徒である。
その大好物は、白魚、干タウナギ、糖蟹だったという。・・・

何胤侈於味,食必方丈。
後稍欲去其甚者,猶食白魚、、糖蟹。
使門人議之,學士鍾議曰:
 “之就,驟於屈伸,而蟹之將糖,躁擾彌甚。
  仁人用意,深懷惻怛。
  至於車螯、母蠣,眉目内闕,漸渾沌之奇;
  唇吻、外緘,非金人之慎。
  不榮不悴,曾草木之不若;
  無馨無臭,與瓦礫而何異?
  故宜長充皰廚,永為口實。”


そりゃ、この食はマズイそ。仏教徒には顰蹙モノ。

白魚の食べ方はわからぬが、タウナギは干物[]にする時にのたうち回る。ウナギは頭を目打ちし一瞬にして3枚にする技術が必要だが、下手糞だとクネクネと猛然と動き回ってえらく時間がかかるのである。いかにも残酷そう。
蟹を蜜に漬けるのも、そりゃ中で大騒ぎするのは当たり前。現代の、蝦を紹興酒に入れる食事と同じようなもの。
それらの食をどう思うか、聴くという神経もどういうことかわからぬが。ともあれ、食における煩悩は捨て去れぬと悟っていた御仁と見える。
食べるなら、無機質な殻を被っていて、頭や目の無い蛤や牡蠣はどうかとのご提案も面白い。ただ、それは"渾沌"でもあるゾヨという指摘がされているからだ。

もう1ツは、諷刺にこと田鰻を登場させたお話。
帝から任命されると即座に、その器ではござりませんと辞退の返書を提出すると、帝が翻意を促すという儀礼の馬鹿々々しさを書いたもの。官位取得に血道に走っていながら、つまらぬ行為を繰り返して何の意味があるの、とは誰もが思っていた訳だが、危ない危ない。
作者は、韋琳。562-585年頃の作。・・・

後梁韋琳,京兆人,南遷於襄陽。
天保中,為舍人,渉獵有才藻,善劇談。
嘗為《旦表》,以譏刺時人。其詞曰:
 “臣旦言:
  伏見除書,
  以臣為粽熬將軍、油蒸校尉、州刺史,脯臘如故。
  肅承將命,含灰屏息。
  憑籠臨鼎,載兢載タ。
   臣美愧夏
   味慚冬鯉,
   常懷服之誚,
   毎懼巖之譏。
  是以漱流湖底,枕石泥中,
  不意高賞殊私,曲蒙鉤拔,
  遂得超升綺席,忝預玉盤。
  遠廁玳筵,猥頒象箸,澤覃紫篝,恩加黄腹。
  方當鳴姜動椒,紆蘇佩儻。輕瓢才動,則樞盤如煙;
  濃汁暫停,則蘭肴成列。
  宛轉崎之中,逍遙朱唇之内。
  禦恩噬澤,九殞弗辭。
  不任屏營之誠,謹列銅槍門,奉表以聞。”
詔答曰:
 “省表具知,卿池沼縉紳,
  陂渠俊乂,穿蒲入,肥滑有聞,
  允堪茲選,無勞謝也。”


タウナギ君も上級品と見なされていたのですゾ、と成式先生は指摘している訳である。
夏の、冬の鯉、の腹、巖、こそ一流だが、それと優るとも劣らないということのようだ。
香辛料は、姜、椒、蘇、儻ということで、かなり手の込んだ料理が好まれたのだと思われる。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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