表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.1.18 ■■■ ライノ絶滅犀は尾+牛で作られた文字のように見える。しかし、尸[屍冠]+丷[角の象形]+牛という気分も生まれてしまう。 遅いという文字があるところを見ると、通常は、歩がえらく遅いのが特徴と見られていたようだ。 しかし、走るのに適した奇蹄である。 危険を感じたら巨体で一直線に猪突猛進。猪と比較にならぬほどの、とんでもない重さの物体がとてつもない高速で動くのである。しかも、角という一点にその全エネルギーが集中するから、ぶつけられた方はひとたまりもない。 しかし、それを避け、逆方向に全力疾走で逃亡することも少なくない。一般には、たいへんに臆病な動物であると見られている。 そんな性を考えると、釈尊の「犀角独歩」という比喩は優れているとは言いかねる。 しかし、その感覚はあくまでも現代人が考える角の役割での話。 古代人の発想は違っていたのは間違いない。犀角は、力学的に突き刺すための器官というよりは、そこに、心を通わせる特別な力があったとされていたからだ。 だからこそ、この言葉が生きてくる。 「無題」 李商隠[812-858年] 昨夜星辰昨夜風 畫樓西畔桂堂東 身無綵鳳雙飛翼 心有靈犀一點通 隔座送鉤春酒暖 分曹射覆蝋燈紅 嗟余聽鼓應官去 走馬蘭臺類轉蓬 ともあれ、犀角は特別視されていたのである。そうなれば、中華文化では、それを服用することで力を頂戴しようとなるのは必定。もちろん粉にして服用もあるが、古代の貴人の基本は、この角で酒を飲むことで、精気を得たのである。[e.g.:"兕觥"] 酒器の基本はあくまでも「角」器なのだ。正倉院にも所蔵されているのも当然の話。 もちろん牛角を用いたイミテーションもできないことはないが、それは犀角のような実用性に欠けるから、唯一無二なのである。 → 「鸚鵡杯の会合」 (牛角の材質ではまともに彫り込みができないからである。他の角はミニアチュールしかできない。) つまり、古代に於いては、犀角酒器は当たり前のものだったことを意味する。現代のライノ保護運動が持つような危機感など、全くなかった訳である。そこらじゅうに棲息していたので、獲れるだけ獲ったと考えるべきだろう。お蔭で、北方犀は早々と絶滅の憂き目。 大胆に推測すれば、ライノとは北方のアルタイ山脈に近い平原の獣であり、それが南進し、現在残っている5種が生まれたとなろう。こんな風な系統になっているのでは。 アルタイ〜華北棲息の北方犀・・・出土。 ┬─兕[絶滅] │↓南進 │┼┌──スマトラ犀 │┌┤┌─ジャワ犀 ││└┴─インド犀 ││↑1角(入南アジア) └┤ ┼│↓2角(入アフリカ) ┼└─┬─白犀 ┼┼┼└─黒犀 つまり、犀は、唐代において、すでに絶滅危惧種の道を歩いていたということ。 換言すれば、北方の兕はすでに絶滅していたが、まだまだ領土のそこかしこに犀は棲息しており、それぞれの地域でこぞって捕獲し、その角を帝に献納していたということ。 成式の記述を読む時は、そんな状況を踏まえておく必要があろう。・・・ 【犀】之通天者必惡影,常飲濁水。 當其溺時,人趁不復移足。 角之理,形似百物。 或云犀角通者是其病,然其理有倒插、正插、腰鼓插。 倒者,一半已下通。 正者,一半已上通。 腰鼓者,中斷不通。 故波斯謂牙為白暗,犀為K暗。 成式門下醫人呉士皋,嘗職於南海郡,見舶主説本國取犀,先於山路多植木,如狙栻,雲犀前腳直,常倚木而息,木欄折則不能起。 犀牛一名奴角,有鴆處必有犀也。 犀,三毛一孔。 劉孝標言,犀墮角埋之,以假角易之。 [卷十六 廣動植之一 毛篇] (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |