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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.2.9 ■■■

浄域寺[2:呉道玄 v.s. 皇甫軫]

「寺塔記」は長安の寺の巡礼記。記載の中心は当然ながら絵画になる。ところが、浄域寺[靜域寺]でのそこらの記述は異様で、殺しの話が絡んでくるのである。・・・

宣陽坊靜域寺,本太穆皇後宅。
寺僧雲:
“三階院門外,是神堯皇帝射孔雀處。
  禪院門内外,《遊目記》雲王昭隱畫。
  門西裏面和修吉龍王,有靈。
  門内之西,火目藥叉及北方天王,甚奇猛。
  門東裏面賢門也,野叉部落。
   鬼首上蟠蛇,汗煙可懼。
  東廊,樹石險怪,高僧亦怪。
  西廊,萬壽菩薩。
  院門裏面南壁,皇甫軫畫鬼神及雕形,勢若脱。
   軫與呉道玄同時,呉以其藝逼己,募人殺之。

  萬菩薩堂内有寶塔,以小金銅塔數百飾之。
   大歴中,將作劉監有子,合手出胎,七念《法華經》。
   及卒,焚之,得舍利數十粒,分藏於金銅塔中。
   善繼雲合是劉銘。
  佛殿東廊有古佛堂
,其地本雍村。
   堂中像設悉是石作。
   相傳雲隋恭帝終此堂。

  三門外畫,亦皇甫軫跡也。金剛舊有靈。

天寶初,馬獨孤明宅與寺相近,獨孤有婢名懷香,稚齒俊,常ス西鄰一士人,因宵期於寺門,有巨蛇束之卒。
 佛殿内西座蕃神,甚古質。
 貞元已前,西蕃兩度盟,皆載此神立於壇而誓。”
相傳當時頗有靈。
辭。
三階院連句:
 密密助堂堂,隋人歌桑。雙弧摧孔雀,一矢損貪狼
(柯古)
 百歩望雲立,九規看月張。獲蛟徒破浪,中乙漫如墻
(善繼)
 還似貫金鼓,更疑穿石梁。因添挽河力,為滅射天狂
(柯古)
 絶藝卻南牧,英聲來鬼方。麗龜何足敵,殪豕未為長
(善繼)
 龍臂勝猿臂,星芒起箭芒。虚誇絶高鳥,垂拱議明堂
(柯古)
     [續集卷六 寺塔記下]
禅院門内外は王昭隱/王韶應の画と、《遊目記》に記載されている。
なかでも、門西裏側の和修吉龍王は霊験あらたかとか。
門内西側は火目夜叉と北方天王だが、甚だしく奇怪で猛々しく描かれていた。
門東の内側には、夜叉や鬼神の画。特に鬼の頭上に蜷局を巻く蛇は冷や汗モノの怖ろしさ。
東廊の庭の樹木や岩は険しく奇怪な印象。高僧の姿も異怪そのもの。
西廊には、萬壽菩薩。
院門裏南側の壁画は皇甫軫の画。鬼神と雕である。勢いがあり、まさに壁から抜け出しそう。
呉道玄は、この皇甫軫と同時代のライバル。このような絵を皇甫軫からみせつけられ、芸のレベルが自分の力量に逼迫していることを認識。妬みの感が生まれ、皇甫軫殺害を募ったという。
  :
三門外の画も蹟からみて皇甫軫の作。
金剛は古くから霊験ありとされている。


朱景玄:「唐朝名画録」では、呉道玄は最上級の"神品"、張彦遠:「歴代名画記」では"画聖"とまでされている。要するに、帝国最高峰としてのお墨付きを得ていた訳である。
   「画論」
にもかかわらず、怨嗟の念から殺人まで厭わぬという凄さ。それこそまさに鬼神と言えよう。
と言っても、それは権謀術数の官僚の世界では驚く話ではない。絵画の世界も官僚的組織だったということ。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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