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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.3.13 ■■■

劉から張へ

「聖山」の話として、"徘徊【五嶽】作災。"との記述部分だけををとりあげた文章がある。[→]
この箇所は、魯迅:「中国小説史略」第十篇唐之傳奇集及雑俎でも、ママで引用されている部分だが、なんの解説もなく勝手に考えろとばかりつきはなされている。
少々考えてみようか。・・・

天翁姓張名堅,字刺,漁陽人。
少不羈,無所拘忌。
常張羅得一白雀,愛而養之。
夢天劉翁責怒,毎欲殺之,白雀輒以報堅,堅設諸方待之,終莫能害。
天翁遂下觀之,堅盛設賓主,乃竊騎天翁車,乘白龍,振策登天。
天公乘余龍追之,不及。
堅既到玄宮,易百官,杜塞北門,封白雀為上卿侯,改白雀之胤不産於下土。
劉翁失治,徘徊五嶽作災。
堅患之,以劉翁為太山太守,主生死之籍。

  [卷十四 諾皋記上]

漁陽/薊の地とは、漁水(白河)の北側の北京〜渤海湾の天津辺り。軍事的には要衝の地だったのだろう。"漁陽鼓動地來,驚破霓裳羽衣曲。"[白居易:「長恨歌」]ということで、遊興に耽っていると、突然、侵略の太鼓の音が発せられるような場所ということになる。
(漢朝が、匈奴系の烏桓族を長城の内側に移住させる政策を始めた時の、一番の対象地でもあるらしい。もちろん、匈奴や鮮卑からの防衛のためである。)

そのようなイメージを与えておきながら、白雀の話になる。

白燕、白鳥、白雀、白鳩,白虎,白鹿,白熊、は典籍記載されており、吉祥として朝廷に大いに喜ばれていた特別な動物である。
それをないがしろにすれば祟りありの世界だろう。
ここでは、それがよくある白雀の恩返し的な話風にしたてられている訳だ。

しかし、それが焦点ではない。
この話の骨子は単純明快。
旧帝の姓は劉で、新帝の姓は張というだけのこと。

後漢末に原始道教の一派である五斗米道が漢中で興った。開祖は"張"天師。子、孫が継いだ。この流れをくむのが"正一教"とされる。ちなみに、もう一つの黄巾の乱の方は太平道だが、こちらの教祖は天公将軍を称しており、一家の姓は張。
各地で挙兵が相次ぎ、まさに「歳は甲子に在り」の雰囲気だったのである。しかも、洪水、旱魃等々が発生し、異民族の反乱も次々と勃発の時代である。

「酉陽雑俎」を読み通していれば、おわかりになると思うが、全編を通して、特段の記載がないならその話のソースは必ずある。成式はこんな話を探し出し、できるだけ簡素に書きだしている訳だ。それによって、ある意味、歴史観を披歴しているようなもの。

成式の慧眼ぶりに、魯迅もさぞかし驚いたに違いない。愛読書だったそうだが、当然だろう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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