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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.3.14 ■■■

東王公

"西王母姓楊,諱回,治昆侖西北隅。"[卷十四 諾皋記上]の直前に、東王公の話が収録されている。
東王父は、崑崙山の西王母と対になっていることを示唆したかったのだろう。

西王母が桃に関係するとは思えないが、[→]そんな話まであるゾと指摘しておくのが「酉陽雜俎」の執筆姿勢。東王公の方はどうなっているか、見ておこう。・・・

東王公諱倪,字君明。
天下未有人民時,
秩二萬六千石。
佩雜綬,綬長六丈六尺。
從女九千。
以丁亥日死。


西王母と違って、どこに居るのかの情報はない。それに、ここでの記載は滅多にみかけない手のもの。(この指摘が余りにキツイので、消された可能性もあろう。)
と言っても、名が「倪」、字が「君明」で、碧海の上で生まれたとの話は道教ではよく知られている。[「列仙全傳」]
東の碧海に浮かぶ島には太陽が休む扶桑の木ありで、太陽運営神を示唆する"木公"を意味しているとの話に付随することが多いようだ。これに、西と東の陰陽の"氣"によって万物が生まれたとのストーリーが被さるのである。
木公は道教の神であるから、もちろんのこと、官僚組織のトップとしての様相を帯びる。
冠三維之冠,服九色雲霞之服,亦號玉皇君。居於雲房之間,以紫云為蓋,青云為城。仙童侍立,玉女散香。真僚仙官,巨億萬計。各有所職,皆稟其命,而朝奉翼衛。
  [「太平廣記」卷第一 神仙一 木公]

それと同時に、中華帝国の枠組みに当て嵌めるための工夫がなされる。
中華黄帝の概念とつなげる必要があるということ。

つまり、黄帝の東には木公、西は金母となる。南と北は火と水の霊だろう。
そして、万物を産むのは、女性ではなく"氣"。西王母の陰と東王父の陽から。両者は女仙と男仙を領導することになり、仙人になるにあたっては、この両方の官僚組織からお墨付きをもらう必要があるに違いない。官僚制統治の仕組みとはそういうもの。

一般によく見かける東王公の紹介とは、およそかけ離れた概念と言えよう。・・・
東荒山の大石室に住み、長1丈、頭髪は白。鳥面人身で虎尾。[「神異経」東荒経]
成式がそれを知らない筈もない訳で、このコントラストを見ておくべきと言っているのであろう。

特に、"秩"と"佩綬"の数値には、大笑いさせて頂ける。つまり、東王公とは単なる位階の名称との解説をしてくれたのである。
しかも、この程度の禄でしかないのだ。その尺度がわかるように、参考指標も、別途記載してある。
("品秩"と言えば、官位とその俸祿の多寡を意味する用語である。例えば、郡首長[太守]は二千石。万石だと最高位に近いのではないか。天官にも、そのような階位としての等級区分と田圃の石高で俸禄が決められていたということ。)・・・

太一君諱臘,天秩萬二千石。

職位を示すための印を礼服につけるための帯も、えらく長いというにすぎない。
しかしながら、これらが実に有り難い訳だ。そのような拝領品が"神"の価値を決めている世界ということ。おっと、忘れてはいけない。從女が何人いるかも、威信の評価に大いに繋がる訳である。

もちろんのことだが、官僚だから更迭もある。丁亥がその時期。なんらかの占いに関係するのであろうか。"木-金"蜜月が、"火-水"に変わるだけかも。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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