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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.3.17 ■■■

魏の官僚の文士評

魏の肇師、信、尉瑾が、魏帝の蒲萄好き話をしているシーンがある。[→]
その続きはこんな内容。・・・

梁主客陸緬謂魏使尉瑾曰:
 “我至,見雙闕極高,圖飾甚麗。
  此間石闕亦為不下。
  我家有荀尺,
   以銅為之,金字成銘,家世所寶此物。
  往昭明太子好集古器,遂將入内。
  此闕既成,用銅尺量之,其高六丈。”
瑾曰:
 “我京師象魏,固中天之華闕,
  此間地勢過下,理不得高。”
魏肇師曰:
 “荀之尺,是積黍所為,
  用調鐘律,阮鹹譏其聲有湫隘之韻。
  後得玉尺度之,過短。”  
[巻十一 廣知]

この部分は序曲のようなもの。本体は少し跳んで「卷十二 語資」に。
そこの鑑賞には時代背景を理解しておく必要があるので、情報を提供しておこう。

先ず、[513-581年]だが、梁-西魏-北周と渡り歩いた官僚である。隋の初年度に辺境で死亡したようだ。もちろん、当時としては超有名人だからそんなことができた訳である。
もともとは、簡文帝の文学サロンが作り上げた宮体詩人。簡単に言えば、梁が中華帝国の文芸の原点ということ。
ところが、晩年は、亡国悲哀と望郷の作風に一変したのである。唐代の文人からみれば、文学史を学ぶ際には、まずこの人からとなるお方。
よく知られている作品は「哀江南賦」だが、自序が決め手。・・・

 「哀江南賦」自序
  :
 楚歌
("魂兮帰来![「楚辞」招魂]")非取樂之方,
 魯酒無忘憂之用。
 追為此賦,聊以記 言,
  不無危苦之辞,惟以悲哀為 主。
  :
 窮者欲達其言,者須 歌其事。
 陸士衡聞而撫掌,是所甘心;
 張平子見而陋之,固其宜矣。


成式が一目置いているのは、詩歌や酒では憂さは晴れないという下りがあるから。

その、信の文士評価こそ、成式の本題。・・・

信作詩,
 用《西京雜記》事,
 旋自追改,曰:
 「此呉均語,恐不足用也。」


《西京雜記》は、長安譚"雑俎"であり、著者は不明。東晉 葛洪の跋文が附属しているから、彼だと見る人もいる。しかし、そこには漢 劉と班固の名前が引かれており、そちらとも。ところが、どうも矛盾点があるようで、どれも説得性が今一歩ということのようだ。そういうことで、梁 呉均[469-520年]との説もある。「呉均体」で知られる有名人である。

この信だが、簡文帝の文学サロンで一世風靡し、文学史的な流れを確定させたことが誇りである。従って、その眼で文士を眺めるので、どうしても、寸足らずの人ばかりに映るのである。それに、北の政権の文化の成熟度が低すぎると感じていたこともあったろう。・・・

信曰:
 「我江南才士,今日亦無。
  舉世所推如子升,獨擅下,
  常見其詞筆,亦足稱是遠名。
  近得魏收數卷碑,制作富逸,特是高才也。」


北斉 魏収[506-572年]が目につく位だというのである。
<北地三才>として、温子昇、撃ニ共に、才を認められてはいたが曲者でもある。多分、政治的には敵だらけ。そのような官僚は、中華帝国の習わし通り最後は殺されることに。

マ、文士には、偏屈な輩が多いのである。才が長けるので、周囲が間抜けだらけで、始終イライラさせられる結果でもあろう。指摘したところでどうにもならぬから、馬鹿にするだけ。
結果、平凡な官僚からプライド高き嫌な輩とされてしまう。
信だって、同じ穴の貉と見るのは崔肇師[503-551年]である。・・・

魏肇師曰:
 「古人托曲者多矣,然《鸚鵡賦》,禰衡、潘尼二集並載;
  《賦》,曹植、左思之言正同。
  古人用意,何至於此?」


《鸚鵡賦》の著者は禰衡。西晋 潘尼[250-311年]と同じく、才長けて、傍若無人的。
賦》や「詩聖」曹植[192-232年]も同類と決めつけているわけで、そんな性情も素敵ではないか、ワッハッハーということであろう。

ここに、突然、君房が登場するが、崔肇師が引いたのではあるまいか。・・・

君房曰:
 「詞人自是好相采取,一字不異,良是後人莫辯。」


"君房下筆,言語妙天下"の前漢 賈捐之[n.a.-B.C,43年]のことではないか。

〆が尉瑾の一言である。
ハハハ、文士と言っても、所詮は権力闘争渦中の政治屋なのですゼ、と。・・・

魏尉瑾曰:
 「《九錫》或稱王粲,
  《六代》亦言曹植。」


冒頭で、評価された曹植も、一族ですしネ、ということ。
<後漢 建安[196-220年]三曹七子>とは、そんなもの、との指摘。
 曹操/父, 曹丕/卞皇后長子,曹/卞皇后三子[192-232年]
 孔融, 陳琳, 徐幹, 王粲/魏 家臣[177-217年], 応, 劉,阮
こういうこと。・・・
 213年5月、曹操、魏公に。
 九錫の栄典を賜る。[「後漢書」献帝紀]
 その後、王粲を侍中に。
 「六代論」は曹冏/曹操養祖父曹騰の兄曹叔興后裔が著者。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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