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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.3.19 ■■■

頭部に住む神の異名

「身中神々瞑想法」と題して、道教の身体の見方を書いてみた。[→]

五臟-六腑が先にたち、筋-脈-肉-骨-皮を五體と考える訳で、当然ながら、脳の働きは軽視される。感覚器官は五臓器に関係するのであって、脳とは無関係なのである。
死体を見て、脳とは単なる髄液の貯蔵場所と考えていた結果と思われる。観察力欠如と、ドグマ信仰優先であるから、そうなる訳だ。
その髄液だが、腎から流れ出し、身体を貫く脊髄を経由して脳に流れつくとの発想だろう。上部のタンクに貯めておいて、下に流すだけと見たのであろう。

心臓に神明イメージを与えているのと比較すると、脳は随分と軽視されていることになる。その精神的基盤は、現代科学の発想とはかなり違っていそう。
成式はそこらがかなり気になったようである。

脳こそが"知覚の大元"という説に軍配をあげたのだ。・・・

身神及諸神名異者,
  腦神曰覺元,
  發神曰玄華,
  目神曰虚監,
  血神曰沖龍王,
  舌神曰始梁。

  [卷十一 廣知]

晋の時代とされる道教書の《黄庭内景經》とは違うのである。この書では、脳を"脳神"としているが、なんと"泥丸"。考え抜いて"精根"尽き果てる場所を示唆しているようでもあるが。
このような神名。・・・
至道不煩訣存真,泥丸百節皆有神,
  髮神 蒼華字太元,
  腦神 精根字泥丸,
  眼神 明上字英玄,
  鼻神 玉壟字靈堅,
  耳神 空閑字幽田,
  舌神 通命字正倫,
  齒神 崿鋒字羅千。
一面之神宗泥丸,泥丸九真皆有房,方圓一寸處此中,同服紫衣飛羅裳。但思一部壽無窮,非各別住居腦中,列位次坐向外方,所存在心自相當。

  [「太上黄庭内景玉經」至道章第七]

髮神がイの一番に来ている。
仏教では、出家する際に、"想いを断ち切る"ということで剃髪するから、俗世間への邪念が表出する不浄の根源とされているのだろうが、現世の富貴と氏族繁栄を重視する中華的風土では逆の見方だろう。

他の典拠としては、・・・
【身神品】
  腦神名 覺元 字道都
  髮神名 玄文華 字道行
  皮膚神名 通衆 字道連
  目神名 虚監生 字道童
  項神名 靈謨蓋 字道周
  脊神名 蓋歴輔 字道柱
  鼻神名 冲龍玉 字道微
  舌神名 始梁峙 字道岐
 右上部八神君

  [「無上祕要」卷之五叔三@正統道蔵]

身体24神という表現もあるようだから、は上(頭蓋と脊柱を含む頭部)8神、中(胸首部)8神、下(内臓と臀部=胴部)8神ということだろう。成式が鼻神を血神と書き換えたのは、鼻血が出るからだろう。
神的に見る機能を虚監と呼び、食することを舌で味わう感覚と見なしてそれを始梁としたのについても、成程感アリということでは。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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