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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.5.1 ■■■

酉陽雑俎的に山海経を読む

--- 全体像:その4 鳥信仰 ---

「山海経」はなんといっても、冒頭の山経が面白い。山系毎に記述してあるからだ。

その山系だが調査執筆側の都合で勝手に山を分類したのではない。祭祀仕様(神への捧げものの規定)が規格化されているグループ毎に記載しているのだ。まだ国が生まれていない時代でのことだとすれば、特定の山系での交流や抗争が活発だったと考えるのは無理があろう。
ともあれ、各山系に"首山"が設定されていたりする。
これは、グループ全体として、山系としての祭祀が行われる山が決まっていたことを示している。
はっきり書いてはいないが、南山経では、どうも、そこに含まれる3山系全体の首山も存在しているようだから、かなり広域の祭祀連合体ができあがっていたことを示しているといえよう。
つまり、山"系"信仰が国家樹立に繋がったと示唆していることになる。(後世は、例えば、5山といった形の信仰。数多くの霊山はあるものの、各地毎の単独孤立の山信仰でしかない。山"系"信仰は解体されたのである。)

この南山経の3つの山系の系統的な信仰が、中華帝国の精神的基盤をつくりあげた可能性もありそう。そう思って眺めるとビックリなのは、南山経以外で、山系毎の神が記載されているのは極く僅かな点。西、北、東は0なのだ。これら3〜4程度の山系しかない地域と違って、中央は12山系もある訳で、周囲の影響を受けるのだろうが、丁度4分の1にあたる3柱の山神が記載されている。うち2柱は人面鳥身だが、残りの1柱はなんと龍首鳥身である。山海経全体を眺めると、神は人面というのが決まりのように思えるが、南山経はそうではないのも特徴と言えよう。"鳥"さえ組み込まれていればよいということのようだ。

実際、南山経3山系における"鳥"類の記載は凄まじいものがあり、第一義的信仰対象は鳥だったのは、ほぼ間違いない。山神がはっきりしていない山系が1つあるが、そここそ、"鳳皇"の出自なのである。なにげなく登場するだけだが。(で示す通り。)素人的には、翼を震わせて台風を起こす羽蟲の王者という文字だから、毎年その被害を受ける地ということのように思える。他地域がそれを受け入れる必然性はなさそうだが。

それにしても、鳥信仰は話題として、いかにも低調。おそらく、鳥信仰がどうしてここまで拡がったのか、うまく説明ができないからだろう。つまり出自が想像できないということ。洞察力が発揮できない限りどうにもならないのである。
当然ながら、そのモデルと思われる実在する鳥も指定しようがない。これでは議論どころではなかろう。(しかし、それほどまでに各地バラバラの鳥信仰ということかも。)

ちなみにインド的鳥信仰だと、素人でもすぐにモデル候補が思いつく。・・・コブラを喰う孔雀、鳥葬の鷲、7,000m級の山を越えて旅立ち戻ってくるインドガンといったところ。一方、中国の揚子江流域で、山信仰と結びつきそうな鳥の設定はかなり強引な理屈を持ってこない限り難しかろう。四川盆地なら鵜の漁撈もあろうし、湿地帯や河川湖沼の水鳥との親和性はあろうが、それを山信仰と関係すると考えるのはかなり無理があるのは歴然としているからだ。
それに、太陽と烏の関係も、カラスが鳴いたら家に帰ろう程度で決まるものか疑問がわくし。
後世の"鳳凰"像のモデルも気になる。いかにも野鶏あるいはその類縁の雉だと思われるが、時を告げることで起用されたのだろうか。しかし、それが広範な山信仰に結びつくとも思えない。どれもこれも説明は簡単ではない。民俗学的調査から、鳥居は高い柱の上の鳥とされるが、飛ぶことを放棄した系統に属する野鶏を当て嵌める訳にもいくまい。
少なくとも、山々をいとも簡単に移動できる鳥神だからこそ、山"系"信仰が成り立つ訳であり、それに合致するモデル鳥を考える必要があろう。

こうして考えてみれば、その辺りを解くヒントを得たいなら、「山海経」をじっくり読みこむしかない。山信仰に繋がりそうな鳥神の概念をそこから探る必要があろう。

と言うことで、山経に記載されている鳥を眺めてみることにした。 参考→ 「トリ文字考」(2014年7月19日)
さらに、その後神に昇格し、中華帝国から認証された状況を見るために、海経での神と神的扱いになっている鳥類を並べてみた。
もっとも、これをザッと眺めて、そんなことができるかはなんとも。・・・
(/鶏, 雉/キジ & , 鶉, 鶴, 鵁/鷺類, 雕/鷲, 鷹/タカ, /隼, /サシバ, 鴟/トンビ, 梟/フクロウ & , /ミミズク, 翠/カワセミ, 鳧/ケリ, /アジ, 鴛鴦/オシドリ, 駕鳥, 鵲/カササギ, /オオヤマドリ, /ヤマドリ, 鳩, /ムクドリ類の八哥鳥, 鸚/鸚鵡, /錦鶏, 鴆/Pitohui[有毒], 鳳凰/極楽鳥)
[南山経]
《1》山神・・・龍首鳥身
   (旋龜・・・鳥首→大頭亀?)
  𪁺𩿧・・・三首六目六足三翼
  鳩的灌灌・・・呵音
《2》山神・・・鳥首龍身
  鴟的・・・人手痺音
《3》 -
  人面鵁的瞿如・・・白首三足自號鳴
  鳳皇@丹穴・・・五采文
  怪鳥@旄山-育遺谷
  怪鳥@灌湘山
  人面梟的@令丘山・・・四目有耳自號鳴
  鳳皇, @南禺山
[西山経]
《1》 -
  @松果山・・・K身赤足可以已𦢊
  赤@小華
  翠的@符禺山・・・赤喙
  鶉的肥遺・・・黄身赤喙
  人面梟的𩇯・・・一足冬見夏蟄
  尸鳩@南山
  白翰, 赤
  鶉的@天帝山・・・K文赤翁
  鴟的數斯@塗途山・・・人足
  @黄山・・・青羽赤喙人舌能言
  @翠山・・・赤K兩首四足
《2》 -
  鸚
  @數歴山
  鸞鳥@女牀山・・・五采文
  人面@鹿臺山・・・自叫鳴
  [人食]羅羅
《3》 -
  鳧的蠻蠻@崇吾山・・・一翼一目相得乃飛
  奇鳥
   (人面龍身[山神の子])
   ↓殺@鍾山
  鴟的・・・赤足直喙黄文白首如鵠音
  
   ↓殺
  雕的人面大鶚・・・K文白首赤喙虎爪龍身晨鵠音
  鷹, @槐江山
    @昆侖山
  欽原・・・鴛鴦大
  鶉鳥・・・帝之百服役
  怪鳥獸
    (人的西王母@玉山・・・尾虎齒善嘯蓬髪戴勝)
  勝遇・・・赤食魚録音
  文首の鳥@長留山
  鶴的畢方@章莪山・・・一足赤文青質白喙自叫鳴
  三青鳥@三危山
  𪇱・・・一首三身
  烏的@翼望山・・・三首六尾善笑
《4》 -
  當扈@上申山雉的・・・髯飛
  白雉, 白@盂山
  @白於山
  人面自號嵫・・・身犬尾
[北山経]
《1》 -
  烏的@帶山・・・五采赤文自爲牝牡
  涿光山
  @蔓聯山・・・群居朋飛雌雉毛自呼鳴
  雉的白鵺@單張山・・・文首白翼黄足
  人面雌雉的竦斯・・・見人則躍自呼鳴@灌題山
《2》 -
  白, 白@縣雍山
  人面烏的𪄀𪃑@北・・・宵飛晝伏
  夸父的@梁渠山・・・四翼一目犬尾鵲音
《3》 -
  鵲的@歸山・・・白身赤尾六足善驚,其鳴自
  烏的@馬成山・・・首白身青足黄名自
  雌雉的@陽山・・・五采以文,是自爲牝牡鳴自
  酸與@景山・・・四翼六目三足自
  烏的𪄶@小侯山・・・白文
  梟的黄鳥@軒轅山・・・白首自
  烏的精衛@發鳩山・・・文首白喙赤足自
  @饒山
[東山経]
《1》 -
  状之山・・・鼠毛
《2》 -
  鳥獸@曹夕之山
  鳧的・・・鼠尾善登木
《3》 -
《4》 -
  [食人]鬿@北號之山・・・白首鼠足而虎爪
[中山経]
《1》 -
《2》山神・・・人面鳥身
  
《3》 -
  駕鳥
  鳧的・・・青身朱目赤尾
《4》 -
  赤
《5》 -
  梟的・・・三目有耳録音
《6》 -
   (旋龜・・・鳥首鼈尾判木音)
  ・・・長尾丹火赤青喙自呼鳴
《7》 -
《8》山神・・・人面鳥身
  白, , 鴆
《9》 -
  白, 鴆, 翰
  竊脂・・・赤身白首禦火
《10》 -
  跂踵・・・一足
  
《11》 -
  
  雉的・・・恒食蜚
  鵲的嬰勺・・・赤目赤喙白身若勺尾自呼鳴
  鵲的青耕・・・青身白喙白目白尾自叫鳴
  烏的・・・赤足可以禦火
《12》山神・・・龍首鳥身
  怪鳥

【海経】
<人面鳥身神>
  [海外経]
《南》 -
《西》 -
《北》禺彊・・・両耳蛇飾(珥) 踐兩青蛇
《東》句芒・・・______ 乗兩龍
  [大荒経]
《東》・・・両耳蛇飾(珥) 踐兩黄蛇 (黄帝→禺禺→禺京@北海)
《南》 -
《西》・・・両耳蛇飾(珥) 踐兩赤蛇
《北》禺彊・・・両耳蛇飾(珥) 踐兩赤蛇
<九首鳥>
 九鳳 [大荒北経]
<鳥民>
 【羽民國】長頭 羽 [海外南経]
 【羽民之國】生毛羽 [大荒南経]
 【讙頭國 or 讙朱國】人面有翼 鳥喙 方捕魚 [海外南経]
 【鹽長之國】"鳥民"鳥首人 [海外経]
<神的人>
  [海外西経]
 "民@諸夭之野"・・・食鳳鳥卵
<神人-使[食取]三青鳥@昆侖虚北>
  [海内西経]
 西王母
<神人-使四鳥:豹、虎、熊、羆>
  [大荒東経]
 【國】
 【中容之國】
 【司幽之國】
 【白民之國】之子
  [大荒北経]
 【叔國】
<神人-使四鳥>
  [大荒東経]
 【K齒之國】
 【玄股國】
  [大荒南経]
 【三身之國】
 【張弘之國】
  [大荒西経]
 【天民之國】
  [大荒北経]
 【毛民之國】(禹→均國→役采→修:"殺":綽人⇒帝が潛かに立国)


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