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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.5.23 ■■■

ハザール国

「卷四 境異」には、国際派の成式ならではの記述がある。

阿薩部 多獵蟲鹿,
剖其肉,重疊之,以石壓瀝汁。
波斯、拂林等國,米及草子釀於肉汁之中,經數日即變成酒,飲之可醉。


今村注によれば、阿薩部は不詳だが、突厥可薩部のことではないかと。

7世紀初頭、カスピ海北〜黒海北の地域に遊牧民の可薩帝國が存在したのである。
シルクロードではなく、ステップルートの毛皮の道にあった国のことである。一般的には、ハザール/Khazaria国と呼ばれている。
地理的には波斯国と拂林国に接しており、3大帝国の交流が盛んだったことになる。
 波斯=ペルシア[651年サーサーン朝滅亡 661年ウマイヤ朝成立]
 拂林=東ローマ[ビザンツ]帝国
 [イタリア〜バルカン〜小アジア〜レバント〜エジプト〜北アフリカ〜ジブラルタル]
[→「西洋とペルシアの植物」]

イスラムと正教の間に挟まれていたが、どちらの宗教にも染まらず、宗教的寛容性を保ったようである。

肉汁を穀類醸造時に混ぜた酒を飲む奇習ありということで、ビックリするが、ステップルートの盟主であることを考えればどうということもない儀式であることに気付く筈。
この地の、もともとの遊牧民はスキタイ人であり、義兄弟の杯を始めた民族だからだ。そう、角の杯に互いの血を入れて酒を飲み合う血盟の誓。
大規模な式典を行うためには、表記のように肉を重ねて圧搾して得た肉汁を混入した醸造酒を大量に必要としたのだろう。

血盟の杯は奇習どころか、ユーラシア大陸東端まで、その風習のコンセプトが伝わっているほどポピュラーなもの。血を嫌うため、血判状に変わってはいるものの、日本列島にもなにがしかの文化が入っているようだ。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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