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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.6.13 ■■■

白髪抜きの術

「卷五怪術」には、奇怪と言うほどのこともなさそうな術も収載されている。・・・

海州司馬韋敷曾往嘉興,道遇釋子希遁,
深於繕生之術,又能用日辰,可代藥石。
見敷鑷白,曰:
 “貧道為公擇日拔之。”
經五六日,僧請鑷其半,及生,色若矣。
凡三鑷之,鬢不復變。
座客有祈鑷者,僧言取時稍差。
別後,髭色果帶香B
其妙如此。

海州(青州+冀州 or 東海)@江蘇の司馬だった韋敷は、嘗て、嘉興@浙江に往ったことがあった。
その道すがら、たまたま、僧侶の希遁に出会った。
この希遁だが、繕生
[養生]之術に長じており、日辰を使う能力もあって、それを藥石の代わりにしていた。
韋敷が鑷
[毛抜用具]で白髪を抜いているのを見て、声をかけてきた。
 「貧僧ではございますが、公卿のために、
  拙僧が日を選定して、抜いてさしあげましょう。」と。
それから、五、六日は経ったであろうか。
僧は、半分の毛を抜いてほしいと言った。
生えてきたものを見ると、黒アザのような色をしていた。
これを3回繰り返して抜いたのだが、鬢の毛はもとに復帰することはなかった。
座を同じくしていた客が、
自分も毛抜きをお願いしたいと請うたところ、
僧は、僅かだが、取る時刻に差があったと言った。
別れてから後のことだが、髭の色が緑色を帯びてきた。
僧侶の希遁の術は、こんな風に、微妙なのであった。


白髪抜きの技法は、確かに絶妙なテクニックと言えよう。

そもそも、毛が黒いのはメラニン色素があるからで、それを作るのは毛根にある細胞。その機能不全で白髪になるだけのこと。そう簡単に対処できる訳がない。
原因は単純であり、1に遺伝形質、2にストレス、3に細胞老化。これを考えると、一本の毛を抜いたくらいで、その物理的影響がどうこうと考えるのは時間の無駄では。
ただ、このような仮説を立てることはできよう。・・・
抜けば毛根部分が損傷するのは間違いない。しかし、その程度ならすぐに回復する筈で、発毛に影響を与えるとは思えない。だが、問題が無いとは言えまい。回復の過程でメラニンを出さなくなった細胞が増殖する可能性があるからだ。白髪が増えかねないと言えよう。
そんなことを考えると、この僧侶の養生の術は一理あるかも知れぬ。
どのような頭皮の状態で、どんな気分で抜くかに気を遣うのは重要である、と。経験即から、ストレス状況と、頭皮細胞の調子をそれとなく想定していたのでは。当然ながら、微妙な裁定となろう。

そうそう、老人が白髪を抜くのに良い日があるとの、陶弘景:「真誥」の以下の文章が、今村版では収録されている。 [卷十一 廣知 →「禁忌日」]・・・
正月四日 二月八日 三月十一日
四月十六日 五月二十日 六月二十四日
七月二十八日 八月十九日 九月十六日
十月十三日 十一月十日 十二月七日
右老子拔白日
  {此是太清外術事}

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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