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☀ 📖■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.6.21 ■■■
パンクの刺青
無賴という言葉は、現代用語でいえばパンクだろう。唐代は、無賴漢が大勢存在する成熟した社会だったようだが、パンクが抱えるフラストレーションを理解していたようである。
官僚統制による平穏な社会を目指す人々は、無頼漢撲滅にしゃかりきになっていたのだが、成式は、そんなことをしても無意味と考えていたかも。
よく見れば、なかなかに面白い輩だらけではないかと。
すでに岡本綺堂訳でご紹介したお話だが、[→]小生にはそのトーンが今一気に喰わないので再掲。・・・
李夷簡，元和末在蜀。
蜀市人趙高，好鬥。
常入獄，滿背鏤毗沙門天王，
吏欲杖背，見之輒止。
恃此轉為坊市患害。
左右言於李，李大怒，擒就廳前。
索新造筋棒，頭徑三寸，叱杖子打天王，
盡則已，數三十余不絶。
經旬日，袒衣而歴門叫呼，乞修理功德錢。
元和年間[806-820年]末、813年に成都尹を命じられた李夷簡は蜀に居た。
その地の市人、趙高は狼藉者。
何時も入獄しており、刑吏は杖棒の刑罰を与えようとしたが、その背中全面に毘沙門天の入れ墨が彫られており、それを見ると叩けないのであった。
周りがそのことを李に伝えたところ、激怒し、自ら出でて対応することに。
新しく作った叩き杖を探し出したのだが、その頭は３寸もあった。
そんな頑丈な杖で毘沙門天の入れ墨を打ちのめしたのである。その結果、その像は完全に見えなくなってしまった。なにせ、打撲は３０回にも及んだのである。しかし、どうやら一命だけはとりとめた。
何十日か経て、趙高は脱いだ衣を担いで家々の歴訪開始。毘沙門天修理の功德のために銭を、と乞いて回ったのである。
マ、パンクがそんなことで懲りる訳がない。
頭から尻まで、ワッハッハ話である。
続いて、もう一本。・・・
蜀小將韋少卿，韋表微堂兄也。
少不喜書，嗜好紮青。
其季父嘗令解衣視之，胸上刺一樹，樹杪集鳥數十。
其下懸鏡，鏡鼻系索，有人止側牽之。
叔不解，問焉。
少卿笑曰：
“叔不曾讀張燕公詩否？
‘挽鏡寒鴉集’耳。”
蜀の小將だった韋少卿は韋表微の従兄弟。
ところが、進士に登第し翰林學士になった従兄弟とは大違いで、書を読むといった手の勉強は大嫌い。もっぱら刺青を愛好していた。
その叔父がたまたまではあるが、
服を脱がせて刺青を視る機会があった。
胸の上には一本の樹木が彫ってあり、
その木の上には数十の鳥が集まっていた。
しかも、その下には鏡が掛かっていて
鏡のつまみに吊下げ紐がかかっており、
その傍らに人が居て、それを引っ張っていた。
コリャ一体なんなんだ、ということで
叔父貴が問いただすと、
韋少卿は笑いながら答えた。
「叔父さん、張燕公の詩を読んだことないの？
"挽鏡寒鴉集"くらいは耳にしたことがあるでしょう。」と。
これもワッハッハもの。
張燕公とは、玄宗代初期の名宰相で、燕国公に封ぜられた宮廷詩人の張説[667-730年]のこと。
‘挽鏡寒鴉集’とは、「岳陽晩景詩」の一句の文字違いと思われるが、これは張説の息子で、安禄山に仕え、宰相に取り立てられた人物が作者。
「岳陽晩景詩」 唐 張均
晩景寒鴉集，秋声旅雁帰。
水光浮日去，霞彩映江飛。
洲白芦花吐，園紅柿叶稀。
長沙卑湿地，九月未成衣。
成式がこの嗜好を面白がって、故意に作者を間違って書いた可能性もあろう。これぞパンクの鏡ということで。
(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.
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