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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.7.13 ■■■

蠣は牡のみ

成熟した貝には果たしてオス、メスの区別があるのか?
単性生殖でないが、中性というなら、ある時期に突然分化し始めるのか?そして、生殖活動後は、性器は消滅してしまうのか?

このような牡蠣の生態に関する疑問にわかり易く答えてくれる、解説を読んだことがない。
たいていは色々あるのです、で終わり。考えるより、暗記が楽しい人だらけなのがよくわかる。実につまらぬ社会である。そんな観点では、「酉陽雜俎」には感心させられることが多い。

カキ[→]の♂♀について一言書いているから。

これは、単なる生物好きとか、貝屋の関心とは、次元が異なる視点で見ていることを意味しよう。・・・

牡蠣,言牡,非謂雄也。
介蟲中唯牡蠣是鹹水結成也。


さて、カキの雌雄だが、繁殖期(月名に"r"が無い温暖な季節)には当然ながらそれぞれ存在している。
しかし、カキを喜んで食する我々がオスを食べているのか、メスを食べているのか考えることはない。と言うことは、食べる時期だと、ほぼ雌雄同体になっていることになろう。(あるいは、目視での生殖器官の雌雄判別不能とも考えられる。)

こんなことは、まともに観察さえすれば素人でもわかるが、現代、そんな観察者が存在しているのかはなんとも。と言うのは、カキをよく知る人とは、モノカルチャーの世界に住んでいるから。特定の養殖種がカキ全体を代表している保証など無い。(栄養状態で性転換する種を選抜していれば、富栄養で育てるのだから、出荷されるのは卵を持つようになる♀だらけ。)
(余計なことだが、小生は貝類のこうした性転換は珍しい現象と見ないので、それを前提にしていないビスフェノールAの実験結果を信用していない。)

そもそも、古代の海人など、毎日毎日、沢山の人々が長時間に渡って細かく観察していたのである。カキは美味しいのであるから。従って、雌雄についての"事実"を知らなかった筈がない。
その結果、"牡[=雄/♂]"のみの生物とされた訳だ。
(蠣[=虫+(+萬)]はこの文字だけでカキである。礪は荒砥石であり、そのようなタイプの貝ということになる。殻の表面形状からすれば、納得できる表現と言えよう。)

成式先生、そこらが気になってしかたがなかったと見える。
牡が居るということは、牝の存在があってのこと。単性生殖ではないのだから、牡蠣の牡とは♂ではないのは当たり前だゼ、と釘を刺していらっしゃる。俗説は、カキの身は乳白色で濃厚な液に満たされていることを言っているにすぎないのダ、と。

言ってみれば、牡とはカキが鹹水からできていると表現しているようなもの。♂のすべてが凝縮された液体からできている身ということ。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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