表紙
目次

📖
■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.7.22 ■■■

豚の怪

「山海経」には/豚/豕/逐的獣が登場するが、その手のトーテム系[→]とは思えない"妖豚"の話が収録されている。・・・

爨釜不沸者,有物如豚居之,去之無也。
   [卷十一 廣知]
釜で炊いても、沸騰しないとしたら、
そこに豚のようなモノが居るからだ。
それを除去すればどうということなし。


【語注】
[=鬲+𦥑+木x2+大+火]だが、部首は"火"。フォントが小さいと、一体どうなっているのかわからないほど、えらく難しい字画にもかかわらず、JISコードに入っているので驚いたが、それは浅学のせいだった。訓が存在するからだ。"かしぐ"と読み、竈/かまどで火をおこして飯を炊くという意味である。そういえば、"飯盒炊爨"という言葉があったことに気付く。炊飯をスイサンと言ったりするのはおかしいなと思ってはいたが、こんな漢字があったとは露知らず。

上記と似た話も収載されているから、成式先生、豚というところが大いに気にいったのであろう。
「捜神記」から、引いた方はこんなストーリー。[→]
 陳家での、とある朝餉。
 どういうことか、釜の湯が沸かない。
 甑を覗くと、そこに【白頭公】。
 釜の中から出てきたのである。


【白頭公】だと、流石に、中華帝国では大いに好まれる、有無を言わさず即座に怪を"ぶっ殺す"訳にもいくまい。しかし、それが豚なら大喜びで屠殺となろう。せっかくだから、竈神に感謝し、捧げてからじっくり頂戴いたそう、となろう。これは吉兆だゼ、と酒盛りである。
今でも、祭竈節では、豚酒はなくてはならぬものらしいし。
どうせ、竈神への供犠という精神は遠の昔に薄れ、もっぱら豚と酒の美味しさをじっくり味わう日と化しているのだろうが、豚酒のしきたりはえらく古いものらしい。
 十二月八日為臘日。…其日,並以豚酒祭竈神。
  [「荊楚歳時記」]

思うに、この豚は家畜ブタではなく、野獣イノシシだろうから、家の厨房あたりに野菜屑をあさりにうろつき、穴掘り/穴入りが好きな動物だから、人気が無いということで竈のなかに入っていたこともあったのでは。
飯を炊こうと、鬲ならぬ大釜を両手(𦥑)で竈に設定し、火口に、木片(木x多数)を抱えて入れ(大)て火をつけるが、さっぱり。見れば、竈の中に瓜坊が隠れていたりして、などと、ついつい想像してしまう。
なかなか愉快。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>>    トップ頁へ>>>
 (C) 2017 RandDManagement.com