表紙 目次 | ■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.8.11 ■■■ 蛇の話3題「卷十七 廣動植之二 蟲篇」の蛇話をとりあげよう。その1。・・・ 【冷蛇】, 申王有肉疾,腹垂至骭, 毎出則以百練束之,至暑月,常鼾息不可過。 玄宗詔南方取冷蛇二條賜之, 蛇長數尺,色白,不螫人, 執之冷如握冰。 申王腹有數約,夏月置於約中,不復覺煩暑。 申王[睿宗第2子の李ヒ/李成義:663-724年]には肉疾があり、 腹の肉が垂れ、脛にまで達していた。 そのため、毎回、外出時には百練で束ねていた。 暑い時期に入ると、常に息も絶え絶えになり過ごせなくなる程。 そこで、玄宗[睿宗第3子]は詔を出して、 南方から【冷蛇】を2条取り寄せた。 申王はこれを賜ったのである。 その蛇の長さは数尺におよび、色は白。 人をさすことはなかった。 この蛇をしっかりつかんで取ると、 まるで氷を握っているかのように冷たかった。 申王の腹は、数本の紐で締めくくっていたが、 夏の間、その中に蛇を置くことで、 暑さの煩わしさを覚えずにいられるようになった。 蛇は変温動物ということで、接地温度が体温と見て間違いない。従って、ヒトの体温以下であるのが普通。従って、触ると冷やっこいのは確か。 しかし、発汗しないから人肌に接していれば同じ温度になってしまう筈。おそらく、蛇は嫌がるだろう。 冷たくて気分よしと感じるのは、物理的に冷たくなるというよりは、申王が蛇好きだったからでは。玄宗は、その辺り気遣いの人だったと言えるかも。 → 「天子兄弟」 その2。・・・ 【藍蛇】, 首有大毒,尾能解毒,出梧州陳家洞。 南人以首合毒藥,謂之藍藥, 藥人立死。 取尾為臘,反解毒藥。 【藍蛇】は、 首から上に猛毒あり。 一方、尾部には解毒作用が。 梧州@広西の陳家洞@百色隆林に棲息している。 と言うことで、南人は頭を取って毒薬を合成する。 それを藍藥と呼んでいる。 この薬で、人は立ちどころに死ぬ。 尾の方も取って臘に加工しておく。 [肉を、冬に塩漬けし,その後、十分に天日乾燥する.] こちらは、その反対である解毒薬。 これを伝説の蛇としている解説文を見かけるが、小生は実在していると見る。 熱帯雨林に棲む克蟒/緑錦蛇/Green tree pythonが藍化するので、姿は似ているが無毒なので該当しない。 と言うことで、色が藍ではないが、猛毒(血小板破壊の出血性)で有名な竹葉青とみる。青竹蛇の名前は広東辺りが発祥のようで、他の地域名は、浙江になると刁竹青、広西では小青蛇、貴州興義では藍蛇。 → (「蛇的王国」に毒蛇類説明) その3。・・・ 【蚺蛇】,長十丈,常吞鹿,消盡,乃繞樹出骨。 養創時肪腴甚美。 或以婦人衣投之,則蟠而不起。 其膽上旬近頭,中旬在心,下旬近尾。 【蚺蛇】は、 全長10丈。 常に、鹿を丸呑みにする。 身体のなかで消化し尽くすと、 樹木に巻き付いて骨を出す。 創傷の養生をしている時の脂分[肪腴]は美しくする効果あり。 婦人の衣類を投げつけると、 即座に蜷局を巻き起きることなし、とか。 その胆囊[膽]は、 上旬には頭に近いところ、 中旬は心臓に近いところ 下旬は尾にちかいところ、に在ると。 蟒/錦蛇である。現存種で世界最大は、東南アジアに棲息する網紋蟒/網目錦蛇。全長10m程度は結構みつかっている。 この大きさなら、鹿であれば、巻き付いて窒息死させてから、ゆっくりと丸呑みは普通の食餌といえよう。頻繁な食餌行動は不要な生き物だし。 そんなこともあるので、臭いのついた衣類に巻き付くこともあるのだろう。 大陸の風土からすると、蛇的な皮膚を望むなら蛇脂を食するのが一番で、即効性なら塗布ということになるのではあるまいか。 油脂分を塗れば保湿と防護膜効果が生まれるから、それなりの効用はあろう。 ただ、薬用となれば、何と言っても錦蛇の肝。特別高貴薬だったようで、干寶:「捜神記」第十一卷の話がそれを物語る。・・・ 顏含,宇弘都,次嫂樊氏,因疾失明,醫人疏方,須蚺蛇膽,而尋求備至,無由得之。含憂歎累時,嘗晝獨坐,忽有一青衣童子,年可十三四,持一青囊授含,含開視,乃蛇膽也。童子逡巡出戸,化成青鳥飛去。得膽,藥成,嫂病即愈。 顔含の字は弘都。次兄嫁の樊氏が疾病で失明。医者の処方は、須らく、錦蛇の肝をというもの。 そこで、(全力で)どこかに備蓄なきかと尋ね求めたが、いかんともしがたく得られずじまい。 顏含は暫くの間、憂い、悲嘆にくれていたが、偶々、昼間に一人で坐っていたら、忽然と、青い衣服を着た一人の童子が出没。年の頃、13〜14。青い袋を持っており、それを顏含に授けたのである。 顏含が開けて視ると、そこには蛇の肝。童子は逡巡していたが、扉の外へ出ると、いきなり青い鳥に変身して飛び去って行った。 入手した肝で薬を調合できたお蔭で、兄嫁の病気は即刻治癒。 (参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載. 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |