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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.8.27 ■■■

肉攫部総覧[上]

「卷二十 肉攫部」では、以下の2つのパラグラフはすでに取り上げた。[→「鷹狩」]
  ≪鷹の子育て観察≫
凡鷙鳥,雛生而有惠,出殼之後,即於外放巣。大鷙恐其墜墮及為日所曝,熱致損,乃取帶葉樹枝插其巣畔,防其墜墮及作陰涼也。
欲驗雛之大小,以所插之葉為候。
若一日二日,其葉雖萎而尚帶青色。
至六七日,其葉微黄。
十日後枯瘁,此時雛漸大可取。

  ≪保護色あるいは擬態について≫
凡禽獸,必藏匿形影同於物類也。
是以蛇色逐地,茅兔必赤,鷹色隨樹。


しかし、卷二十には今村Indexによるパラグラフ番号でみれば38も収録されているのだ。にも拘わらず、今のところ、上記の2つと、巻末の2つは触れただけ。
そうなるのは、残りの部分は、様々な鷹について、当時の関心という観点で記載されているだけだからだ。現代人にとっては、さっぱり読む気力がおきない。しかし、今村注は丁寧につけられており、学者としての真摯な姿勢を貫いただけと言われそうな気もするが、その仕事ぶりには頭が下がる。猛禽類分布や鷹狩研究者への贈り物ということで注力したのであろう。

さて、そんなスタンスとは程遠い小生はどうするか。

折角だから網羅しておこうというのも、およそ馬鹿げた方針だし。

だが、成式がわざわざ収録しているのだから、その理由を考えるということで、眺めてみるか。
なにせ、「酉陽」の地に隠されている古書の知恵を授けようという意気で執筆したようだし。

それでは、早速、この巻の頭から見ておこう。・・・
  ≪取鷹法≫,鷹を取る方法
 七月二十日為上時,内地者多,塞外者殊少。7月20日は上。内地多く外地少なし。
 八月上旬為次時。8月上旬はそれに次ぐ。
 八月下旬為下時,塞外鷹畢至矣。8月下旬は下。外地ばかり。
鷹網鷹を取る網だが、
目方一寸八分,從八十目,五十目,網目は1寸8分四方。縦80目、横50目。
以黄蘗和杼汁染之,令與地色相類。黄蘗を杼の汁で染める。地の色と同じに。
蟲好食網,以蘗防之。&#螽蟲が好んで網を食うので、蘗で防ぐ。
有網竿、都、呉公。網は竿につけ杙で止める。そこに、虫除けのムカデ。
磔竿二:囮の餌は、竿につける。2本。
  一為鶉竿,一為鵠竿。1本は鶉/ウズラ。もう1本は鵠/ハト。
鴿飛能遠察,見鷹,常在人前。鴿は飛行中に遠方を観察。常に人より前に鷹を発見。
若竦身動,則隨其所視候之。鴿が身体を動かしたら、その視る所に従って対応。
  大型狙いなら、
取木、木雀、鷂 木に留まる、雀、鷂の鷹類の場合。
網目方二寸,縱三十目,十八目。網目は2寸。縦30目、横18目。

成程。
鷹を捕まえている現場を見たことはないが、そんなものだろうという気がする。最近は、新宿御苑でも、50cm程度の足が太い鷹が、人の前、2m程度で食事中だったりする位で、人の顔を時々見たりする位のズ太い神経の持ち主のようだから、簡単に捕まえることができそう。

その次、・・・
  ≪鷹巣≫,鷹の巣
一名""鷹。鷹とも。
呼"子"者,雛鷹也。"子"とは鷹の雛鳥のこと。

  ≪鷹類の飼い方≫
 鷹の場合
 四月一日停放,4月1日、放鳥停止。
 五月上旬拔毛入籠。5月上旬、抜毛したら籠に入れる。
  拔毛先從頭起,抜毛は、先ずは頭から順に。
  必於平旦必ず、平明になってから。
  過頂,至伏鶉則止。頭上を過ぎ、伏鶉の箇所に来たら止める。
  從頸下過毛,至尾則止。頸の下を過ぎ、毛から尾に来たら止める。
  尾根下毛名毛。尾根の下の毛の名前が、毛。
  其背毛並兩翅大及尾毛十二根等並拔之,
   その背毛、兩翼、大、覆、尾毛の12根は等しく抜く。

  兩翅大毛合四十四枝,兩翼と大毛の合計44枝。
  覆亦四十四枝。覆とも同じく44枝。
 八月中旬出籠。8月中旬、籠から出す。
雕角鷹等,雕、角鷹、等、の場合。
 三月一日停放,3月上旬、放鳥停止。
 四月上旬置籠。3月上旬、籠に留め置く。
鶻,鶻の場合。
 北回鷹過盡停放,北回りの鷹が通過したら、すぐに放鳥停止。
 四月上旬入籠,不拔毛。4月上旬、籠に入れる。毛は抜かない。
 鶻,鶻の場合。
 五月上旬停放,5月上旬、、放鳥停止。
 六月上旬拔毛入籠。6月上旬、抜毛し籠に入れる。

飼っているとはいえ、羽の状況をよく見ている。44枝という数字があるが、おそらく種によって少し違うのではないかと思うが、両翼の風切羽はだいたいそんな数である。翼にはその根元を被うように雨覆の羽が密集している。さらに脇の羽と、脚の太い脛毛部分の羽がある。留まっている時目立つのは大きな尾羽で、その根元には腰羽。背側は肩あたりから羽が出ているようだ。喉、胸、腹、下腹は軟らかそうな羽毛が密集している。
的確な見方がなされているように見える。

尚、今村注には、上記の鳥の名前がわかるように、生物学からのママ引用を避け、鷹狩の"実際の見聞に基づく"猛禽類分類が記載されている。
正しい執筆姿勢ではあるが、素人からすれば、イメージが湧かないのでポピュラーな種を整理してみた。・・・
●ハヤブサ系
灰面鷲/サシバ[差羽 or ]/Grey-faced buzzard
/ハヤブサ[隼,鶻 or ]/Peregrine falcon
紅隼/チョウゲンボウ[長元坊]/Kestrel
●ワシ系
虎頭海雕/オオワシ[大鷲]/Steller's sea eagle
白尾海雕/オジロワシ[尾白鷲]/White-tailed eagle
金雕/イヌワシ[犬鷲 or 狗鷲]/Golden eagle

赤腹鷹/アカハラダカ[〃]/Chinese Goshawk
鳳頭蜂鷹/ハチクマ[蜂熊 or 八角鷹]/Oriental honey-buzzard
●タカ系
雀鷹 or 鷂/ハイタカ[灰鷹 or 鷂]/Sparrowhawk
蒼鷹/オオタカ[大鷹 or 蒼鷹]/Northern Goshawk
鷹G/クマタカ[角鷹.熊鷹 or G]/Mountain Hawk-eagle
白腹鷂/チュウヒ[沢]/Eastern marsh harrier

/ノスリ[〃]/Eastern Buzzard
日本松雀鷹/ツミ[雀鷹 or 雀鷂]/Japanese sparrowhawk

/ミサゴ[鶚,雎鳩,雎 or ]/Sea Hawk or Osprey
K鳶 or 老鳶/トビ[鳶]/Black Kite

尚、タカ族の生態は思った程にはわかっていない。
と言うのは、「渡鳥」が多いからえある。
上記で、内地と外地などと、奇妙に思える言い方をしているのは鋭い。同じ類でも、どうも渡るる連中と、留まりっぱなしの勢力があるようで、実体はよくわかっていない。(NHKのドキュメンタリー番組で、ジャワ⇒スマトラ⇒マレー半島⇒雲貴高原⇒…⇒山東半島⇒…⇒北九州⇒山陰⇒京都という旅程のハチクマの一団がいることがわかっているとのことで驚いた。その一方、台湾在住の一団も。)

動物園の猛禽類担当者によれば、猛禽類を見に来る方々は、その"渡り"観察者が多いそうである。(渡りルートと時期がわかっているので、観察名所があるらしい。)

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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