表紙
目次

📖
■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.10.3 ■■■

三怪の珍家

永寧王相の家には怪奇ありとの話。・・・
永寧王相王涯三怪:
淅米匠人蘇潤,本是王家炊人,至荊州方知,因問王家咎;,
言宅南有一井,毎夜常沸湧有聲,晝窺之,或見銅廝羅,或見銀熨鬥者,水腐不可飲。
又王相内齋有禪床,柘材絲繩,工極精巧,無故解散,各聚一處,王甚惡之,命焚於竈下。
又長子孟博,晨興,見堂地上有凝血數滴,蹤至大門方絶,孟博遽令去,王相初不知也,未數月及難。
  [續集卷三 支諾皋下]

永寧の王相と呼ばれた王涯にまつわる三怪。

米を洗う匠の蘇潤は、もともとは王家の炊事人だった。
荊州
[@湖北南部]に至り、その方面を知ったので、
王家にまつわる悪いしるし
[咎]について問うてみた。
するとこんな話がでてきた。・・・

【その1】
邸宅の南に井戸が1ヶ所ある。
そこから、毎夜、常に水が沸騰する音が聞こえる。
昼にそれを覗くと、銅製の廝羅
[盥洗用的面盆]が見えた。
或いは、銀製の熨斗
[アイロン]的なモノだったり。
水は腐っており、飲むことはできなかった。
[水腐の井戸] 井戸渫いせずゴミ捨て場所化。

【その2】
そして、王相邸内の物忌部屋には禪床があり、
それは柘材製で、絲繩で飾られた、精巧を究めた工芸品。
[柘樹] 柘/針桑/Silkworm thornの葉は養蚕に用いるが、材の方は、弦や絃の繋がりなのか、弓や琴に使われてきたようだ。山海経中山経では"多柘"は8山もあり、注目されていた樹木である。出典はわからぬが、皇宮御輦軸用だったとも。そうなると、毀樹は忌であろう。(尚、植物分類学的に同属は、枸棘/和活柚/カカツガユ/Cockspur thorn。)
この床だが、故無く分解してしまう。
ところが、それぞれが一ヶ所に集まってくるのであった。
王涯はそれを甚だ悪しいものと見なした。
竈に投げ入れ焚きつけにしてしまえと命じたのである。

【その3】
その上、長男の孟博にも。
明け方に起き出した際のこと。
お堂の地上に凝固した数滴の血痕があるのを見つけた。
その痕跡に従い往くと、大門の場所で無くなっていた。
孟博は急遽、それを除去するように命じた。
王相は初めそのことを知らなかった。
数ヵ月たたないうちに災難がふりかかってきた。


永寧王は犬に似ている【大蟲皮/虎の皮】を持っていたとの話が別篇にある。[→]
王涯が、それに当たるのだろうが、その人物がよくわからない。

小生としては、永寧縣男の爵位を賜り、その翌年に宰相に起用された王珪[557-639年]としたいところ。
しかし、長子の名前もあがってこないから、人違いだろう。

それでも、王珪に比定したい気分は残る。

儒教一途の官であるにもかかわらず、不私廟で法司所劾をくらったが、太宗優容でことなきを得たとされているからである。
しかも、"嫉惡好善"で"一日之長"と自称していたという。[「旧唐書」]
つまり、世の中的には嫌われていたに違いないのである。おそらく、宗族祭祀をしないアイツの家は怪だらけと言わせたであろう。なんとしても、葬り去りたい勢力に囲まれていたに違いないのである。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

 「酉陽雑俎」の面白さの目次へ>>>    トップ頁へ>>>
 (C) 2017 RandDManagement.com