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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.10.22 ■■■

未詳花

「卷九 支植上」には、今村注に"未詳"とされる花の話がある。そんなものか調べてみると、当該用語解説は少なくないが、花の一種であると書いてあり、「酉陽雑俎」の当該箇所の引用以外はなんの情報も無い。
どうにもならぬと諦めるのも癪にさわるので、勝手に想像することに。

[その1]
「酉陽雑俎」には、「牡丹史」[→]を語れるほど、色々な話が収載されている。しかし、アッあれもボタンの仲間だったナ、抜かしたしまったから追加しておこう、ということでは。
つまり、牡丹人気話の補遺。・・・

【都勝花】,紫色,兩重心。
數葉卷上如蘆,蕊黄葉細。


葉牡丹まで含め、ボタンには様々な種がある。
かなり後世の書だが、牡丹の一種と見なされていたと思われる記載があるから、間違いないと思う。
勝魏似魏花而微深,都勝似魏花而差大。
  [宋 周師厚:「洛陽牡丹記」]

[その2]
槿花の突然変異種。・・・

【那提槿花】,
紫色,兩重葉。
外重葉卷心,心中抽莖,高寸余。
葉端分五瓣如帶,瓣中紫蕊。莖上黄葉。


那提は、釈尊の弟子である那提迦葉で使われている語句だが、もともとマガダ国の城があった場所を流れている河川を指すと言われている。
つまり、渡来の品種名。

槿花はムクゲのこと。ただ、芙蓉/フヨウや仏桑花/ブッソウゲも類似種だから厄介である。
ところが、どういう訳か朝顔/Japanese morning gloryを指すこともあると。

アサガオは熱帯原産と言われ、虫媒花なので頻繁に交雑する。そのため、品種といってもわかりにくい。
そんなこともあって、栽培品種のバラエティは半端なものではない。
そう考えがちだが、おそらくその正しさは50%。昔から、突然変異種が多い植物と見るのが正解だと思う。(新品種創出は業者の生命線だから、その作出技術については多くを語らないが、おそらく放射線照射も頻繁に行われてることだろう。)

ただ、日本では、朝顔市が続いているため、その辺りの実情を尋ねてみることができる。もっとも、商売人のお話だから、話半分と割り切って考える必要があるが。
それによると、江戸の古型とは花が青紫色で葉には2つ切れ込み。ところが、ムラサキと呼ばれる品種の花色は紫ではなく、紅色だと。ただ、明るさはないから青っぽいと言えないでもないが。要は、花の色などいくらでも作出可能であり、そんな特徴で分類する気はないということ。
葉は業者用語でいえばトンボ。つまり、3つが均等ではなく、両側2つが羽のように横にとび出ているだけのこと。その何が嬉しいのかはわからぬが、突然変異の形質を大事に護っているのは確か。
尚、ウイルスにやられると葉は巻いたり、黄化するそうだ。被害は結構多そうだが、そこらを正直に語る訳がないから、情報は少ない。

[その3]
南方の槿花。・・・

【瘴川花】,
差類海榴,五簇生。
葉狹長重沓,承於花底。
色中第一,蜀色不能及。
出黎州按轡嶺。


"瘴気"とは、熱帯雨林的な湿潤高温環境でに生息する生物が発散する気である。そこらは様々な恐ろしい疾病が蔓延しており、その原因とされていたのである。

そんな風土の湿地に近い領域に生える樹木の花を指していると考えてよいだろう。

そして、海榴は渡来のザクロである。
ザクロと言えば、実にばかり注目が集まるが、図鑑好きの素人からすると花木という印象の方が強い。この樹木は花だらけになるからだ。言い換えれば結実率が低いことになる。そこで余計なことをすると、花芽を傷つけてしまい翌年が惨めになるとのご注意が書いてあったりする。(栽培種では開花時期に翌年咲く花芽が出る。)

そんな花と比較したくなったとすると、これも槿花系ではなかろうか。そうなると、所謂ハイビスカスの類だと思う。
黎州[@四川漢源の北]の按轡嶺[@四川松潘]辺りは南方ではあるがかなりの高度ではないかという気はするものの。

[その4]
船上栽培植物。・・・

【那伽花】,
状如三春無葉花,
色白心黄,六瓣。
出舶上。


那伽はインドの蛇神ナーガである。中華文化に取り入れられればそれは海龍的な水神となろう。
船上栽培植物として、流行ったものがあったのであろう。
一般的には水は貴重なので、多肉植物を選ぶことになろう。葉が退化している種だらけであり、葉無しとはそういうことだろう。

三春とは三度咲き種という意味では。環境によってはそのような事象が発生するが、特定の地域で特定の樹種で見られると、生えているのが特別な種とされてしまうことが多い。。
船上栽培なら、環境は始終激変するから開花時期が大いに狂って当然である。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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