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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.11.26 ■■■

一角羊

唐代の最盛期と呼ばれる玄宗期のこと。[733年]・・・

開元二十一年,
富平縣産一角神羊,
肉角當頂,白毛上捧。
議者以為豸。

羊は"祥"の動物と言われている。
角の存在が重要なのだろうか。犀や牛と違い、力や戦いに使われるものではないし、殺される時も角で突く訳でもなく、泣き叫ぶこともない。キリスト教的にはイエスの姿に映る訳だ。中華帝国的には、帝に逆らわず内輪の出世競争に勤しむ高級官僚イメージのような気がする。
しかし、吉兆というような、生易しいものではなく、一種の神のお告げ動物であり、生死の決定を行う役割を担っていたようである。
王充:「論衡」卷第十七 是應篇第五十二には獄官による裁判に一角之羊が使われる様子が記載されている。有罪だと触れるが、無罪だと触れないから、解るというのである。
儒者説云:
 _者,一角之羊也,性知有罪。
 皋陶治獄,
 其罪疑者令羊觸之,有罪則觸,無罪則不觸。
斯蓋天生一角聖獸,助獄為驗,故皋陶敬羊,起坐事之。
此則神奇瑞應之類也。
曰:
 夫_則復屈軼之語也。
羊本二角,_一角,體損於群,不及衆類,何以為奇?
三足曰能,龜三足曰賁。
案能與賁,不能神於四足之龜
一角之羊,何能聖於兩角之禽?

(白川静説では、このことから、"羊+言x2=譱=善"とされている。この文字と対照的なのが、犬x2+言=獄で、冤罪だったりすると、隹x2+言=讎=讐となる訳か。)

マ、山海経を見れば、一角獣はそれなりに登場するので、羊が特別扱いされている訳ではないと思う。ただ、羊的とされるのは""と名前が違うし、一角一目目耳後自鳴と、怪獣そのもの。[北山経三泰戲之山]

この富平縣[@峡西渭南]だが、夏代の都市国家。産品豊富の地だった筈で、現在でも様々な通称名がついている。
 墨玉之郷
 石刻之郷
 陶藝之郷
 山羊之郷
 柿子之郷
 柿餅之郷
 瓊鍋糖之郷。

上記の特産品でわかるように、羊の里でもある。
炎帝の出身部族との説もある羌族の故郷だった可能性もあろう。つまり、中華帝国樹立の桎梏となりかねない勢力ということになり、殲滅すべき対象となる訳だ。その後裔と称する少数民族が現存しているのはご存知の通り。
   「十二支の「羊」トーテム発祥元を探る」[2015.10.21]

しかし、すでに、そのような話は分からなくなっていたようである。

"豸"は、もっぱら、「執法官」の象徴として使われたようだ。従って、その職を示す冠が制定されたのであろう。・・・

豸見鬥不直者觸之,窮奇見鬥不直者煦之,均是獸也,其好惡不同。
故君子以為冠,小人以窮奇為名。


それを伝える話は少なくない。今でも法学部のマークに使われているそうだから、大陸では極めてポピュラーな神獣と言ってよいだろう。
法冠者,秦事云:「始皇滅楚,以其君冠賜御史,亦名豸冠。」 [「通典」中丞]
今御史廷尉監平服之,謂之豸冠。 [「獨斷」卷下]
【詩】《周信正旦上司憲詩》曰:
詰旦門欄,繁辭擁筆端,蒼鷹下獄吏,獬豸飾刑官,司朝引玉節,盟載捧珠盤,孟門久失路,扶搖忽上摶,栖烏還得府,棄馬復歸欄,榮華名義重,慮薄報恩難,枚乘還起疾,貢禹遂彈冠,方乘蓮葉劍,未用竹根丹,一知懸象法,誰思垂釣竿。
 [「藝文類聚」刑法]

ところが、そこに、突然として食人的凶獸の"窮奇"とされていると紹介されるのだから、訳がわからぬ。・・・
窮奇状如虎,有翼,食人從首始,所食被髮,在犬北。 [「山海經」海内北經]
其上有獸焉,其状如牛,蝟毛,名曰窮奇,音如狗,是食人。 [「山海經」西山經]

「史記」五帝本紀ではこれは人物とされており、具体的に描かれている。
少r氏有不才子,毀信惡忠,崇飾惡言,天下謂之窮奇。

「左傳」文公十八年によれば、"混沌"と同じような位置づけになる訳だ。4大反漢勢力の1つと見なされたのだろう。
 帝鸿氏之不才子「混沌」
 少r氏之不才子「窮奇」
 氏之不才子「梼」…以上合称「三凶」
 云氏之不才子「饕餮」…合称「四凶」。


(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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