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2003.5.14
 
 


科学技術者増産で産業競争力は向上するのか…

 EUの「S&T Indicators 2003」3次報告(2003年3月版)によると、欧州が生み出す科学技術分野の学生/博士の数は世界最大である。(欧:414万人、米:207万人、日:97万人)
 しかし、従業員中の研究者比率は一番低い。(1000人当り、欧:5.4人、米:8.7人、日:9.7人)
 考えさせられる結果である。(http://europa.eu.int/rapid/start/cgi/guesten.ksh?p_action.gettxt=gt&doc=IP/03/389|0|RAPID&lg=EN&display=)

 これだけ膨大な数の卒業生を輩出しながら、ハイテクビジネスで、欧州は先行できないのである。つまり、単純な学生/博士の増産だけでは、科学技術の国際競争力を高めることができないのだ。

 ところが、日本では、着々と増産に励んできた。この流れと、日本企業の飛躍が重なったため、学生/博士の増産で日本の競争力が高まった、と単純に考えがちだ。
 しかし、欧州の数字を見ればわかるように、この発想は危険である。

 欧州では、科学技術の分野で、国外で働こうと考える人の過半数が、米国を目指すという。PhDを取得した科学者に至っては、75%が米国に滞在したいそうだ。頭脳の米国流出がおきているのだ。
 母国で折角育てても、その頭脳を社会に役立てることができないのである。

 その端的な結果は、ナノテクノロジーとバイオテクノロジーに現れているといえよう。EUは米国に先手を取られてしまったのだ。
 この報告書が指摘した数字は衝撃的である。バイオテクノロジーの特許件数シェアでは、米/カナダ企業の45%に対して、欧州企業が27.8%にすぎない。欧州には、大手医薬品企業が揃っているにもかかわらず、大きく水をあけられている。
 ナノテクノロジーの特許件数シェアも同じようなものだ、米/カナダの45%に対して、EU-15/EFTAを集めても39%に過ぎない。
 日本の状況など分析の埒外だ。

 しかし、欧州は日本と違い、純科学に関しては大学や研究機関に力が蓄積されている。実際、論文調査結果によれば、科学の分野で欧州がトップを走っているという。今までは産業と離れた動きだったが、企業との連携が始まっているから、時間はかかるが、確実に成果に繋がると思われる。
 といっても、欧州の民間セクターの研究開発意欲が弱いため、研究開発費のレベルは低い。しかも、米欧の差は開く傾向にあるという。(2000年の対GDP比率で、欧:1.94%、米:2.80%、日:2.98%)
[但し、これはマクロの数字であることに注意されたい。---グローバル大手企業で見れば、研究開発費の観点では、日本企業のポジションが下降しており、欧州企業が上昇していると見た方が妥当である。]

 こうした状況を見ると、知識ベースのオープンな社会構築に動いている米国のペースに、欧州も日本も追いつけなくなっていることがわかる。
 米国は経済でもマネーを呼び寄せる仕組みを作ったが、ヒトに関しても同じ仕組みを作りあげつつあるといえよう。世界で一番魅力的な環境を作ることで、ローカルで育成された人材の上澄みを引きぬく訳だ。
 これではとても勝負になるまい。

 日本でも、すでに有名人の米国流出が目立つ。遠からず、欧州のようになる可能性もある。
 しかも、下図のように、修士/博士の増産は進んでいるが、製造業がこの人材を活用しているとは言い難い。
 このまま増産を続けても、欧州のようになるだけではないのか。



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