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2004.5.27
 
 


インターネット大学院解禁の意味…

 2004年4月の中教審 大学分科会が、学長室、会議室、事務室が揃えば、インターネット授業を行う大学院大学の設置を認める方向に動くようだ。(1)
 特例措置とはいえ、新しい取り組みの登場は歓迎すべきだろう。

 しかし、こうした教育のメリットは何か、十分に考えてから進めないと、失望感が広がりかねないから、注意すべきだと思う。

 例えば、オンライン教育が一番難しいと思われる音楽分野で見てみよう。

 学生数3,400、うち4割が留学生という、世界最大の音楽総合大学Berklee collage of music がオンライン教育を開始したのが、2003年のことだ。その結果、38ヶ国から1,500人が参加したという。(2)
 大成功と言ってよさそうだ。

 ミュージシャン達もこうした教育支援に動き始めているから、この流れはさらに加速されそうだ。(3)
 その上、無料の教育サイトも立ちあがった。今や、ジャズの基本を誰でも無料で学べる時代が来たのである。

 無料サイトまで提供できるのは、インターネット教育の位置付けがはっきりしているからだと思う。要するに、キャンパスでの人と人の接触から生まれる貴重な価値の提供に、大学が自信を持っているのだ。
 Berklee は、世界に通用するトップ人材の輩出を目指しており、インターネット教育もこの観点から位置付けられている。思想がはっきりしているから挑戦できるのだ。

 日本でオンライン教育試行がさっぱり進まないのは、こうした思想性を欠くからではないだろうか。安価なコモディティ教育を目指すのか、一流人材育成に集中するのか、はっきりしていないのだ。
 実際、一流大学と呼ばれていても、学生に聞けば、ビデオで十分な授業が多いそうだ。但し、他の学生との情報交換が必要だから、登校するという。大学の魅力というより、優秀な人が集まる場所が他にないから大学に行くという状態としか思えない。
 このような状態では、インターネット教育は難しい。キャンパスでの教育価値が無いことが、白日のもとに晒されかねないからである。

 もちろん、インターネット授業に力を割く気が無さそうな世界の一流大学もある。
 例えば、ニューヨークのThe Juilliard School はクラシックのプロ演奏家育成で有名だ。ウエブは充実しているが、オンライン教育をしいて進める考えは無さそうだ。(4)
 黙っていても世界からスタープレイヤーを目指す人材が集まってくるから、特段の仕掛は無用かもしれない。
 (ピアノ分野では中村紘子氏、三船優子氏、白石光隆氏、ヴァイオリン分野では五嶋みどり氏、諏訪内晶子氏、が卒業している。)

 伝統を誇る、パリ・エコール・ノルマル音楽院に至っては簡素なウエブだけだ。但し、5ヶ国語(仏、英、日、中、韓)が用意されており、世界中から素晴らしい才能を集める方針ははっきりしている。(5)

 日本の大学の問題は、外部から教育方針がよく見えない点にある。
 しかも、大学の違いがよくわからない。少なくとも、一般教養を中心とする大学教育、高度な専門スキルを身につけるための大学教育、世界の一流人材を育成する大学、は全く別なものである。インターネット教育も、この3者では内容も進め方も違ってくるのが自然である。
 これらをすべてまとめて、大学におけるインターネット教育を論じたところで、意味は薄いと思う。

 --- 参照 ---
(1) 「構造改革特別区域における大学設置基準等の特例措置について(答申)」中教審 大学分科会第34回資料(2004年4月)
(2) http://www.berklee.edu/news/2004/04/online_scholarship.html
(3) http://www.berkleeshares.com/
(3) http://www.juilliard.edu/college/music/music.html
(3) http://www.ecolenormalecortot.com/rep3/index.html


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