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2005.7.28
 
 


理工系人材育成力は十分といえるか…

 “これまでの欧米先進諸国や我が国に加え、中国や韓国をはじめとするアジア諸国を含めた世界的な知をめぐる競争はますます激しさを増している。”(1)

 2005年6月10日の閣議で了承された科学技術白書の文章である。

 すでに日本の研究開発費はGDP比率3.35%と高水準であるし、人口当たりの研究開発者の数も世界のトップである。
 しかし、これからはそうはいくまい。団塊の世代が抜けていくし、若い世代が研究者になりたがっているとも思えないからだ。そして、海外から優れた頭脳を呼ぼうという動きもほとんど目立たない。

 このまま進むと大変だと言う人は多い。

 米国でも同じような危機感が披瀝されている。(2)
 今のままなら米国が科学技術分野のリーダーの座から滑り落ちるというのである。
 主旨は単純である。
  (1) Sci./Eng.系大卒者数の世界シェアが低落傾向
  (2) Sci./Eng.系大卒者の雇用状況が悪化
  (3) 中印のような国家がSci./Eng.系スペシャリストを増やして競争力強化中
  (4) ハイテク分野の雇用が海外に流出

 では、現実にどのような政策を展開するのかということになるが、日本の場合はどうもはっきりしない。

 例えば、1983年に始まった「留学生受け入れ10万人計画」も2003年に達成された。しかし、この結果、当初の目的は達したのだろうか。
 おそらく、こうした質問には応えられまい。数字目標を実現したから成功というだけの話になろう。
 昔のように、工学部卒業生を増やせば自動的に企業内の研究開発者数増加に繋がるような単純なものではないし、そもそも、目的が多岐に渡っているから効果が計れないのである。しかも10万人の意味も曖昧だ。どんな成果に繋がるのかさっぱりわからない。
 ビジネスマンが一番嫌う成果が定義できないタイプの施策といえよう。

 こんなことを考えてしまうのは、実は、留学生の実態は就労者にすぎないとの意見をよく聞くからである。又、人的ネットワークがさっぱり形成されていないと指摘する人もいる。実際、中国進出企業が現地でリクルートしたら留学生だったという話も多い。ネットワーク利用などスローガンにすぎないのかもしれない。
 それに、日本の科学技術を支えてくれる残留組もほんの一部に留まっているようだ。優秀な留学生をインセンティブでそのまま残らせようと図ってきた米国でさえ、帰国者が激増しているらしいから、人事の透明感が薄く特段のインセンティブもない日本の仕組みでは、日本に残って力を発揮しようという気にならないのは無理もなかろう。

 こんな状況を見ていると、海外の人達の知恵を活用するつもりはないとしか思えない。
 そうなると、研究者の質で勝負するしかない。

 しかし、こちらはもっとお寒い状況かもしれない。

 一流を自負する大学でも、優秀な人材が育っているとは限らないからだ。

 「応用力」がある人材を輩出していると誇る大学でも、質の高い教育が行われているとは思えない。問題発見と解決能力は身についているが、それはチャート式に知識を適用するのが速いというだけの話だったりする。研究開発を担うには寸足らずの人材なのである。
 又、専門知識は豊富でも、アイデア創出能力やリーダーシップ発揮能力が欠落している人も多い。
 これでは、社会に貢献する大きな仕事ができる訳はないと思う。

 こうなるのは、教育の質をマネジメントする気がない、古い体質の大学が未だに力を持っているからだと思う。
 “第三者の評価により質の保証が確認されていなければ国際的に一流大学とは言えない”のは常識だと思うが、未だにそう考えない自称一流大学が存在しているのだ。(3)

 マネジメントの原則は、先ずは客観的な現状認識だ。ところが、これさえ頭から否定する。このような組織で育成された人材にマネジメント能力が備わっているものだろうか。

-- 参照 ---
(1) http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/17/06/05060903/009.pdf
(2) Richard B. Freeman“Does Globalization of the Scientific/Engineering Workforce Threaten U.S. Economic Leadership?”[2005年4月19日]
  http://www.nber.org/~confer/2005/IPEs05/freeman.pdf
(3) http://www.jabee.org/OpenHomePage/jabee3.htm


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