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2005.12.27
 
 


総合分析情報学との名称でよいのか…

 東京大学 大学院 学際情報学府に、2007年から“総合分析情報学コース”(1)が開設されるそうだ。
  Q&A(2)によれば、CIO(Chief Information Officer)育成を目指すとのことである。

 ようやく、大学が、産業振興に役立つ人材を生み出す体制を整備し始めたようで、結構な話だが、衣だけでなければよいのだが。

 と言っても、“ユビキタス”の坂村健教授がリーダーのようだから、意気の点では拍手を送りたいところではある。

 ただ気になるのが、「総合分析」というコース名だ。
 相変わらずの、分析志向の教育を進めるつもりではないかと気にかかる。

 「“総合分析情報学”という名前にしてますが、切り分けて細かくして理解する“分析”でなく、“総合分析”――状況を丸ごと理解するという感じです。“状況認識学”といったほうがよりしっくりくるかもしれない。あまりなじみがない用語なんで、そういう名前にはしていないですが。」(3)とのことだが。

 う〜む。

 日本の社会は、「“技術戦略”の部分、つまり、自分たちが持っているテクノロジーをどう有効利用して戦っていくかとか、そもそも自分たちがどういう力を持っているのかを分析したうえで、具体的なアクションを起すことには慣れていない」との主張は、その通りだが、戦略案出のポイントを“総合分析”としている点には納得いかない。

 状況を丸ごと理解するためには、分析志向では対応できないと思うからだ。

 そして、斬新な戦略を生み出せる、組織のスキルを身につけようとの発想が感じられない点も、大いに気になる。

 そもそも、本当に“しっくり”くるなら、なにがなんでも“状況認識学”にすべきだった。
 そこまでの危機感はないから、“総合分析情報学”としてしまったのでなければよいが。

 例えば、“統体思想”という“あまりなじみがない用語”を敢えて使った経営者もいる。
 “状況認識学”より余程聞き慣れぬ言葉だと思うが、それでも使わざるを得なかったのだと思う。

 グローバル化は均質化と誤解している世の風潮に危機感を感じたのだろう。人とは違う質を主張することこそ、グローバリゼーションの本質であり、日本はその点では誤った道を歩みかねないと考えたのである。(4)

 要は分析志向ではなく、全体を見渡して、判断せよということである。

 米国で、このような大局観をベースとした概念的把握の重要性を語ったのは、Peter Senge教授だ。MIT Sloneで「The FIFTH DISCIPLINE」を題材にしたのは1990年頃だ。
 ひと昔のことである。

 1980年代を思い出して欲しい。
 緻密な分析とそれを総合的に生かす方法論導入を重要視した企業は多かった。
 しかし、その成果が意外なほど乏しいことに気付いていたビジネスマンやコンサルタントは多かった。
 概念的把握はそうした問題意識を共有していた層の琴線に痛く響いたのである。
 その結果、ビジネス界は大きく変わり始めた。新しい発想のマネジメントを展開し始めたのである。

 ところが、多くの日本企業は知らん顔だった。

 このような状況を突破すべく、日本企業に問題提起したのが、“統体思想”と言ってよいと思う。

 簡単に言えば、人々の強い意志で、共有するビジョンの実現を目指し、システマティックに動けるチーム組織を作るということである。
 そんな組織を作るうえで最重要なのが、実は、大局観をベースにした概念的把握なのである。これなくしては機能しないのだ。

 残念ながら、“総合分析情報学”には、そんなニュアンスを感じないのである。

 --- 参照 ---
(1) http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/admission/masters/infoanalysis.html
(2) http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/admission/masters/infoanalysis_qa.html
(3) http://ascii24.com/news/i/keyp/article/2005/12/05/659384-000.html
(4) http://www.nikkeicho.or.jp/shiryo/tokiwa_koen.pdf
(5) Peter M. Senge, 守部信之訳「最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か」徳間書店 1995年
  P. Senge 他, 柴田昌治訳「フィールドブック 学習する織「5つの能力」 企業変革を進める最強ツール」日本経済新聞社 2003年
  ちなみに, 前者の原著は, 欧米ではビジネス書のベストセラー. 日本は例外.
  後者の原著は1994年発刊本. 10年近くたって, ようやく翻訳本が登場.


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