↑ トップ頁へ |
2006.3.2 |
|
|
研究者行動規範にがっかり…時々、ニュースに登場するようだが、日本学術会議が「科学者の行動規範」つくりに動いている。(1)さてどうなるか。 黒川清学術会議会長は、「国際的な競争が激しくなり、情報がグローバルに行き渡ると、とりわけ注目分野の研究成果は“知らなかった人たち”が見るようになる」ことで、不正が発覚しやすくなったと発言している。(2) 素人には、どういう意味かよくわからぬが。 今までは不正発見は難しかったから、放置していた、との主旨でもなかろうとは思うが。 それはともかく、不正が横行しているのは、部外者でもよく耳にはさむ話だから、驚くようなことではない。と言っても、どこまで本当か信用できない話も多い。なにせ、ブラック・メールが横行しかねない世界なのである。 実際、アンケート調査でも、過去5年間で、役員会/編集委員会で問題が指摘された学会の数は113にのぼる。(3) 問題意識はあっても、改革は可能だろうか。 2004年12月に、論文の実験データ改竄で批判を浴びた理化学研究所は、「科学研究上の不正行為への基本的対応方針」を制定した。(4) これで、一歩前進かと思っていたが、そうはいかなかった。 続いて、2005年5月、大阪大学で発生した不正への対処がわかりづらいものだったからである。良く知られた人達がおこした事件であり、研究続行を優先して対処したように映ったのである。 この件は理研とは違い、特許にもかかわるビジネスレベルだから、相当に深刻な問題だった。本来なら、厳格に対処すべき性格の事件だったが、それを避けたとしか思えない。 このお蔭で、この先、大学での捏造は減るどころか、増えそうな予感がする。 そもそもが、日本の大学の研究室の管理状況から見て、捏造指摘はそう簡単なことではなかろう。しかも、捏造者が自白するなど考えられまい。強硬に反論するに決まっている。それに対して、証拠を突きつけるのは困難な仕事である。 今の体制で、不正は、そう簡単に見つけることはできないのである。 しかも、意図的に、自説に合わないデータを軽視したり、適合するデータにハイライトをあてる報告作りを指導する教官も少なくない。 と言っても、ここから不正にジャンプするには高い壁がある。普通の人には、なかなかできるものではない。 しかし、大阪大学事件はその状況を変えたのではないか。 なんだ、有名な人のところで捏造をやっていたのか、という印象を与えたことは否めまい。軽度な捏造なら、たいしたことはないと考える人がでてもおかしくない。 さらに、東京大学化学生命工学でも研究疑惑が発生した。まさに圧巻である。 語る必要もなかろう。 とは言え、「科学者の行動規範」が出来上がりつつあるようだから、なんとかなるのかと期待していたが、最近、たまたま産総研の研究者行動規範を眺め、がっかりさせられた。(5) 第T部「研究者倫理について」で、“研究ミスコンダクト”と記載されていたからである。 驚くべき、特殊な用語である。 “研究ミスコンダクト”とは、研究者倫理からの逸脱だそうで、狭義では、FFPと呼ぶそうだ。海外で使用している用語を使おうという訳だ。 もともとは、広く社会規範からの逸脱行為も視野に入れておくために、「ミスコンダクト」と呼んでいるのだが、(3)日本では、こんなものは特殊な専門用語としか言いようがない。 FFPとは、データの捏造(Fabrication)、偽造(Falsification)、剽窃(Plagiarism)の頭文字だが、日本人で、これらの英単語を知っている人は稀だろう。よくご存知なのは、こうした行為に関係している人達だけだと思う。それでもかまわないらしい。 研究者の世界は、一般とは違うという主張そのものと言えよう。 外部から見れば、これは、世間一般で使われる「不正行為」という用語を恣意的に避けたとしか思えない。 何故そんなことをするのか。 大いに気になるのである。 なにせ、「ミスコンダクト」には、「不正行為」と違って、違法行為のイメージが無いからである。 こんな用語を流行らして意味があるとは思えない。 ものごとは最初が肝心なのだが。 --- 参照 --- (1) 科学者の行動規範に関する検討委員会[2005年10月27日〜2006年10月31日] http://www.scj.go.jp/ja/info/iinkai/kodo/teian.pdf (2) http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20051229/mng_____kakushin000.shtml (3) 日本学術会議 学術と社会常置委員会 報告書[2005-7-21] 「科学におけるミスコンダクトの現状と対策 科学者コミュニティの自律に向けて」 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-19-t1031-8.pdf (4) http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2006/060123/index.html (5) http://www.aist.go.jp/aist_j/information/code_of_conduct/p03_p04.html http://unit.aist.go.jp/genadm/legal/kitei/misconduct.html 教育の危機の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
|
(C) 1999-2006 RandDManagement.com |