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2007.9.25 |
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カーボンナノチューブのこと…日本の物理学分野のレベルをどう見ているのかとのご質問を受けた。素人が語れるような問題ではないが、とりあえずコメントしておこう。 世界に誇れる分野であることは間違いないし、研究者の層も厚い。それだけのこと。 日本は弱いと言われるバイオ分野でも、動物領域のようにレベルが高い領域はある訳で、このことにたいした意味はない。 これを日本の競争力とつなげて考えたりするのは止めた方がよい。 間違っても、湯川秀樹博士以来の伝統が生きているから、物理分野は強いなどと見るべきではない。 もちろん、このことは、湯川博士のパトスやエトスが、現在の研究者に引き継がれていないと言う意味ではない。 日本は、素晴らしい頭脳を生み出したが、それをしのぐ後続を組織的に生み出したとか、組織的に成果を出したとは言えそうにないということ。 もっとも、個々の研究者は、物理学の伝統が自分のなかに生きていると感じているのだろうから、こう言われたところで納得感は薄いかも知れぬが。 文字通り、世界を震撼させる大発見だったカーボンナノチューブで説明すると、多少はご理解いただけるかもしれない。 今では、誰でも知っているが、これは最初から大発見とされた訳ではない。 “小さなトンネルの発見はすぐにイギリスの学術誌「ネイチャー」に発表され、世界のメディアに取り上げられました。ところがその後、学会からはほとんど無視されてしまいます。”(1) フラーレンを調べていて、他の形態のものが見つかったらしいネ、という反応だったのである。 極端に言えば、異端か辺境の仕事とみなされたようなもの。 どんぐりの背比べで、皆が揃って同じようなテーマで競争する世界ならではの姿勢と言ってよいだろう。 どこに新しさがあるか考えるとか、ひょっとしたらコレは・・・、と頭をひねる習慣が無いのだ。 誤解を恐れず語れば、湯川秀樹博士が世界から認められれば、その小人を沢山作り、関係組織の肥大化に精を出す風土ということ。 優秀な人材の無駄遣いだと思うが、この体質は変わらない。こうした肥大化を重点化と考える人もいるから、さらにひどくなっている可能性もある。 しかし、そんな文化を突破する研究者もいる。実は、これこそが、日本の強みなのである。 カーボンナノチューブは、その典型だと思う。 ご存知の通り、アカデミズムではなく、企業の基礎研究部門から生まれた成果だからである。 日本では、アカデミズムより、企業の方がイノベーションを好む風土があるということでもある。ただ、アカデミズムと違うのは、研究推進には「ロゴス」が不可欠だという点。・・・ここが肝要なところである。 日本のアカデミズムは、大先生の説をさらに磨きこむことに注力させる仕組みなのだ。そのため、新説が提案され白熱した議論が始まるような状況は滅多なことでは発生しない。残念ながら、イノベーションには不向きと言わざるを得ない。 素人のつまらぬ説明はよそう。 飯島特別主席研究員(東北大学大学院物理学科博士課程修了)の言葉をそのまま引用した方がわかり易い。 “高分解能でかつ超高真空で動作する新しい電子顕微鏡の開発をしたいと思っていたところ、NECがその電子顕微鏡開発に同意してくれたというわけです。48才で初めて経験する会社勤めです。企業の基礎研究所に飛び込んだもうひとつの理由は、エレクトロニクスの研究所には大学では作れない高価な装置で作ったユニークな材料があり、それらは電子顕微鏡による格好の研究課題になると睨んだからです。” “企業の研究所でも基礎研究ができるはずだ、という密かな自分への挑戦もありました。”(2) 企業で研究しようと、大学等で研究しようと、パトス、エトス、ロゴスをもっていれば、どこでも成果など出せるということ。 驚いたことに、研究の価値を一番わかっていたのが、ほかならぬ研究者自身なのである。 「カーボンナノチューブの実用的な価値について聞かれるとしたら、電気を発見した、イギリス人の偉大な科学者、ファラデーが、当時の大蔵大臣に問われたときの返答”One day, Sir, you may tax it.”と答えます。」(2) 不思議なことに、日本には、こんなことが言える優秀な人を生み出す土壌がある。 ただ、それを生かせるアカデミズムの風土があるかといえば、はなはだ疑問。 このパラドックスこそが、日本の強みでもあり、弱みでもある。 --- 参照 --- (1) 「カーボンナノチューブ ミクロのトンネル発見!? 発見から応用へ・・・」 産総研 http://www.aist.go.jp/aist_j/science_town/living/living_04/living_04_01.html (2) 「Innovative Engine: カーボンナノチューブ “研究者の素顔”」 NECの研究開発 http://www.nec.co.jp/rd/innovative/E1/myself.html#04 (カーボンナノチューブのグラフィック) (C) NANOELECTRONICS.JP [サイエンス・グラフィックス] http://www.s-graphics.co.jp/nanoelectronics/freestuff.htm 教育の危機の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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