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2003.12.8
 
 


TV放送業界の保守性…

 視聴率操作問題が一段落した。様々な見方が飛び交ったが、企業の視聴率重視路線を取り違えた個人の行為だった、と認定され、処断を下して幕を下すようだ。これ以上の切り込み無用、といった所だろう。

 確かに、これ以上追求しても無意味だと思う。
 余りに特殊な業界であり、まともに検討しても、時間の無駄になりそうだ。

 例えば、番組製作者は自由に予算を使える。不正防止の監査など、全く機能していない。
 従って、水増しや架空請求が横行している可能性は極めて高い。
 おそらく、勝手に仕事ができる環境を整えているのだ。優秀でよく働く人材を留めるためには、必須条件なのだろう。ということは、今後も、この状態が続く。

 視聴率調査体制も無責任そのものに映る。買収を働きかけられても、報告義務は無いのだろうか。もしそうなら、驚くほど杜撰な契約である。常識なら、買収されたモニター家庭に対して、即時損害賠償請を行う筈だが、そのような話しも聞こえてこない。
 これで、信頼性ある仕組みだ、と言われても無理である。

 TV放送業界の不思議さは、これだけではない。「9年連続で年間、年度とも視聴率四冠王を達成」している業界の雄なら業績絶好調と思ってしまうが、全く逆なのだ。
  (http://www.ntv.co.jp/ir/setsumei/2003kessan1.html)

 経済低迷による広告費のパイが縮んだことで、TV放送業界全体が不調になるのは間違いないが、普通ならこうした時こそ、シェアトップ企業の優位性が目立つ筈である。
 ところが、この業界はそうならない。全社横並びで不調になるらしい。
 (もっとも、例外的な増収増益企業もあるが、・・)

 しかも、驚きは、視聴率トップ企業の収益性が低下しているのに、どのTV放送局も、経営方針で番組の質の向上を語る点だ。質の向上方針で収益性向上など図れないことが見えているにもかかわらずこうした方針で進めばじり貧になってしまうとは考えないらしい。

 視聴率トップでも、収益性が悪化すれば、番組政策費カットせざるを得まい。そうなれば、番組の質の低下は避け難い。当然、視聴率は落ちる。その結果、収益性はさらに落ちる。・・・という悪循環開始の兆しが見てとれるのではあるまいか。この悪循環を真似してどうするつもりなのだろう。

 驚くほど保守的な業界である。輸出がほぼゼロの、国内だけで「競争」する業界が陥り易い風土といえよう。
 しかも、未だに、視聴率競争が激しいことを批判する人達がいるのだ。顧客たる広告主を無視した発言とも思わないらしい。
 広告主にとっては、購入しているのはGRP(述べ視聴率)である。視聴率競争はそのベースである。視聴率が低ければ、売れる商品が少なくなるだけだ。視聴率重視を否定する論調はどうかしているとしか思えない。
 この業界には、競争抑圧を図り、カルテル化したい人が多いのかもしれない。

 業界を発展させようと思うなら、広告主の要求する「GRPシェア」対応から、顧客の本当のニーズである対象顧客へのリーチと訴求度向上技術を開発する必要があるのは明かである。
 スポット広告を徹底的に流すことで、「GRPシェア」を獲得して、効果があがるとは思えない。マスの視聴率向上ではなく、絞り込んだ対象へのリーチを上げる方が、広告主にとっては高効率であるのは当然の理屈だ。TV放送局は、顧客満足度を高めたいなら、顧客に合わせて視聴者を絞り込むのが最善策だと思う。ターゲットへの広告到達力が期待されているのである。
 この観点に立てば、多チャンネル化は、本来、チャンスがごろごろしているのである。

 しかし、この点では、インターネット利用メディアの方が先を走っていると言えよう。
 意識の差は、もっと大きいかもしれない。

 そもそもが放送局は「GRPシェア」販売業なのである。
 従って、今のままなら双方向コミュニケーションには向かないのである。このことが放送局には理解できていないようだ。双方向になれば、簡単にTVショッピングが始まると勘違いしている人さえいる。電話販売とは全く違うのである。
 視聴率で考える事業では、対象単位が100万人レベルになる。インターネット販売とは全く異なる規模である。例えば、300万人の同時注文に応じるインフラなど作ったらどんでもなく膨大な投資になる。それ以前に、対応在庫が追いつかないだろう。コミュニケーションルートは簡単にできるかもしれないが、そのルートで販売する仕組を構築するのは大事なのである。考え抜かれた事業コンセプトと技術が無ければ、たんなる「夢」に終わる。

 広告主からの収入増の見込みがつかないのなら、一般視聴者の琴線に触れる新サービスで収入増を図りそうなものだが、そうした動きは目立たない。目立つのは、従来からのイベント路線の延長ばかりだ。しかし、イベントの売上を増やそうとすればコスト増になるから、力ははいらない。

 このような状況にもかかわらず、どのテレビ局の方針を見ても、必ずデジタル化とマルチメディア化のインパクトが語られる。
 その一方で、どのように対処するのかは、さっぱりわからない。
 確実に先を読める人などいないから、曖昧になるのは当然かもしれないが、どこを読んでも、時代を切り開く社員像が浮かんでこない。従来型の、良い番組作りをする人を重視し続ける発言ばかりだ。
 従来型人材で、激動期を乗り切れると考えているとしか思えない。

 こうした姿勢を見せつけられると、「激動」とは口先だけで、政府認可商売だから安泰と考えている業界ではないかと考えてしまう。


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