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2005.2.17
 
 


無料新聞報道に想う…

 ここのところ日本の新聞に、米国での無料新聞に関する記事が登場してきた。

 ことの発端は、日本でもよく知られているWashington Postが、2003年8月4日無料日刊紙「EXPRESS」(1)を始めたことにある。
 小さめのタブロイド版に、AP通信からの配信を中心とした国際記事、ワシントン周辺ニュース、スポーツ、芸能情報、告知欄、クロスワードパズル、広告をちりばめたものである。

 15分位でさっと目が通せるように、カラー写真と短い記事で20ページ程度の構成にしている。
 これが、米国初めてのとり組みではないのだが、日本でもよく知られる新聞が、本紙発行部数減少傾向のなかで採用した新戦略ということで注目を浴びたのだろう。
 無料のインターネットウエブに顧客を奪われたから、無料紙によって新聞を読む習慣をつけ、有料の本紙に顧客を呼び込む戦略らしい。

 もちろん、無料だから、地域の人々は大歓迎だったようだ。
 お陰で、「EXPRESS」の発行部数は順調に伸びた模様だ。しかし、本紙のほうは相変わらず部数斬減が続いている。

 この市場に新規参入者があらわれた。サンフランシスコ版を焼き直した「The Washington Examiner」が2005年2月1日に発刊されたのである。(2)
 投資元はコロラド州デンバーのPhilip Anschutz 氏。

 これを見て、日本の新聞記者は、米国の新聞社は昔から広告収入に頼った経営をしているから、首都で広告取り合いの熾烈な戦いが始まる、と見て記事を書いたようだ。首都決戦といったイメージである。
 しかも、著名なNew York Timesもボストンの無料紙「Metoro Boston」に資本参加を年明けに発表(3)したばかりだから、米国では無料新聞の流れはこれから奔流化すると見ているのかもしれない。
米国での代表的新聞
全国版
大衆紙
USA Today
全国版
経済紙
Wall Street Journal
準全国紙
(リベラル)
New York Times
Washington Post
準全国紙
(コンザバ)
Christian Science Monitor
地域紙 Los Angeles Times
Chicago Tribune
地方紙 Washington Times
New York Daily News
Philadelphia Inquirer
Boston Globe
Denver Post
Dallas Morning News
San Francisco Chronicle
海外型
経済紙
Financial Times
海外型
一般紙
International Herald Tribune

 しかし、無料紙ビジネスは今始まったものではない。
 昔からよく知られているビジネスである。

 米国の新聞社は、日本と違って、年功序列型のサラリーマン社員が評論を書く仕組みではない。社説は別として、論評・コメントの類は基本は外部人材である。著作は他の新聞社にも流れる仕組みだ。
 記者クラブなどないから、リポーターは質が問われる。凄まじい競争社会である。
 従って、こうした質の高い論評・コメントやリポートが不要なら、新聞作りのプロを小人数集めれば、通信社の配信記事をまとめるだけで、即座に新聞は発行できる。「EXPRESS」とはその手のものである。
 低コストだから、無料にしても、都市なら採算がとれるのだ。

 要するに、大新聞は広告料が高額だが、小規模運営に徹する新聞なら少額な広告料で済むという点に着目したビジネスである。地域企業から数多くの広告を集めることができれば競争力が発揮できるのである。
 大手は不調でも、小規模経営なら儲かるという訳だ。

 大手新聞は、インターネットサイトに求人広告をとられ、サービス業者の販売広告は無料新聞にとられ、という状況にあるといえよう。

 「The Washington Examiner」の場合、成人から中年の収入が75000ドル以上の家庭という消費旺盛な層への宅配を狙うそうだ。広告収入の増大を考えていることになる。このため、通信社記事のピックアップ版でなく、独自記事も掲載するという。(4)

 しかし、当然ながら、無料紙は広告主の意向に沿った記事になり、独立性は失われるのではないかという危惧はぬぐえない。
 そのため、読者もそう感じながら読むことになろう。

 ・・・などと考えてきて、日本では、このような反応になりそうにないな、と考えてしまった。

 日本の新聞の体質は相当違うからである。(5)

 簡単に違いをまとめると、

 米国紙(New York Times)の特徴は:
  ・豊富な情報量
  ・多様な視点
  ・現実主義(政治なら政策論議)

 一方、日本の大新聞は:
  ・膨大な報道量
  ・単純な二極分類型見方
  ・情緒論(政治なら政局展望)
 ということになろう。

 注意して欲しいのは、米国紙はページ数が多い、と語っている訳ではない点だ。

 政治分野で説明するとわかりやすい。
 日本の報道内容はやたら細部にこだわったものが多い。政治家から細かなことを聞くわけである。話は面白いが、政策内容やその問題点や、代替案はどうなっているのか、さっぱりわからない。報道量は多いのだが肝心な情報はほとんど無いと言ってよいだろう。
 政治以外の、社会、スポーツ、芸術でも同様なことがいえる。

 要するに、日本紙には、こうした観点での信頼感が決定的に乏しいのである。

 ・・・と語ると、A新聞=リベラル、Y新聞=保守、S新聞=ナショナリズム、といった色分けの話と誤解される。

 この感覚こそ、「単純な二極分類型見方」に慣れ親しんでいる証拠である。

 New York Timesを読んでいればすぐわかるが、リベラルといっても、登場する論説や記事はリベラル1色ではない。
 様々な意見が必ず登場する。

 立場は明確だが、対立意見を無視している訳ではない。

 当然ながら、無料新聞ではこんな面倒なことはできないのである。
 無料新聞ができることは、膨大で細かなデータ報道、単純なコメント、情緒的意見の陳列である。

 --- 参照 ---
(1) http://www.washingtonpost.com/wp-srv/express/
(2) http://www.dcexaminer.com/
  http://www.sfexaminer.com/
  http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A55812-Feb1.html
(3) http://www.corporate-ir.net/ireye/ir_site.zhtml?ticker=NYT&script=410&layout=-6&item_id=658586 (4) http://www.denverpost.com/Stories/0,1413,36~33~2684727,00.html
(5) 三輪裕範著「ニューヨーク・タイムズ物語 : 紙面にみる多様性とバランス感覚」中公新書 1999年
  かなり前に出版されている本だが、今でも通用する。


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