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2006.6.27
 
 


電子書籍騒ぎを振り返る…

 日本語の電子書籍リーダーが上市された頃は、この話題で沸騰したものだが、結局のところリーダーは普及しなかった。

 2005年10月末日を以って出荷中止(1)となった機器もあるが、まだ電子書籍リーダーの販売は続いているようだ。しかし、鳴かずとばずといったところだろう。
 2005年には、在庫処分品が秋葉原に流れ、とんでもない安値で売られたりして、ほとんど無視される商品になってしまったようだ。

 ところが、2006年の幕開、恒例のCES展示会で、話題本のダビンチコードが読める英語の電子書籍リーダーを上市するとの発表があった。すでにサイト(2)はつくられているが、詳細はよくわからない。PS3上市に合わせて、今後盛り上げるつもりだろうか。

 音楽配信の仕組みができたから、次は本、という感覚らしいが、仕様を見ると、mp3で音楽が聞けるようだし、ブログやニュースフィードリーダーも読める。PDFも対応するから、電子書籍リーダーと言うより、見やすいモノクロ画面の限定機能PDAというコンセプトに近いのかもしれない。

 日本でのビジネスが上手くいかないから、懐疑的に見る向きも多いが、表示能力は素晴らしいから、琴線に触れるコンセプトならヒットしてもおかしくないと思う。情報が乏しく、コンセプトがよくわからないから、評価しても意味はないだろうが。

 などと考えているうち、日本での動きを振り返ってみたくなった。

 電子書籍リーダーは4万円位する。本に比べれば、高価格である。しかし、普及しなかった根源的な問題はこの価格の高さにある訳でははあるまい。
 様々な意見があるようだが、気になるのは、技術屋が考えるからこんな結果になるといった類の見方が結構多い点である。確かに、技術集団が頑張った製品であることは間違いない。(3)
 しかし、その頑張りを無にしたのは、頭デッカチな、非技術屋集団ではないだろうか。
 およそ技術屋なら反対しそうな展開が平然と行われているからである。

 ビジネスモデル構想を優先し、機器が持つ本来の優越性を消すような動きばかりしている。機器に魅力がなければ、売れる筈はないと思うが、ビジネス全体の組み立て方が優れていれば成功するという独善的な人達がいたのである。

 どういうことか説明しておこう。

 電子書籍リーダーには2種類あり、互換性はないし、ビジネスの仕組みも違う。ところが、両者はガチンコ勝負と言われてきた。
 電子本の規格という意味ではその通りである。
 しかし、実際、上市され、両者は全く違うコンセプトということがわかった。競争しているように見えたとしたら、それは両者のビジネス展開が間違っていたとしか言いようがない。

 先頭を切った「シグマブック」と、チョット遅れた「リブリエ」は、機器もビジネスの仕組みも、実に対照的だった。

 前者は、2頁表示。両手で持つことになる。520gとかなり重いし、厚い。軽量ノートパソコンと一緒に持ち歩くとか、ポケットに入れるような代物ではない。しかも青色が強い液晶である。
 一方後者は、厚さ13mm、重さ190gと本並みで、片手で持てる。白黒表示の電子ペーパーを使っているから字は読み易い。印刷より見やすいと言う人もいう位である。文字のリーダーとしては秀逸であり、一旦使い始めたら離せなくなる力はある。
 但し、文字以外は精度上無理があるし、頁めくりに時間がかかるという欠点はある。

 ところが、驚いたことに、後者は貸本ビジネスを追及したのである。しかも、当初は貸本以外は読めなかったのである。
 これは、読書を一時のエンタテインメントと考える発想だ。これはこれで明快なコンセプトであり、これを追求するなら、それに合ったやり方があろう。
 しかし、そのビジネスに適しているのは、実は前者の機器である。後者の機器は、エンタテインメント本の象徴である漫画を読める能力に達していないからだ。・・・2頁表示でページめくりがスムースなのは前者。後者は、そもそも、解像度が足りない。これは辞書にも向かない。しかし辞書が搭載されている。
 印刷本を、電子化するだけで、電子本のプラットフォームが完成する筈がないのはわかっていた筈である。電子本の何が嬉しいのかをはっきりさせ、それを喜ぶ人に提供する仕組みにしないのだから、売れる筈がなかろう。
 それでも、高級文具のような質感ならわからないことはないが、そうでもない。理解し難い。
 ただ、素人にもよくわかるのは、閉鎖的な仕組みと、至るところで課金する姿勢だけである。

 漫画を部屋に何時までも保管する人もいるらしいが、それは稀だ。それこそ、読みたくなるようなオマケ漫画をつけて、安価な漫画貸本業を展開してしたら、実は後者には大きなビジネスチャンスがあったかもしれないのである。

 一方、前者は、売り切り本ビジネスにこだわった。
 こちらの購入者は購入ファイルをいつでも読めるメリットを享受できる。お蔭で、貸本ビジネスの電子本より、こちらの方がよいと言う人が多かったようである。
 素人が考えてもわかるように、沢山本を購入する人なら、電子ファイル購入でも一向にかまわない。現実に、本を置く場所にこまっている人は多いからである。そのニーズに応えるビジネスかと思い拍手した人もいたらしいが、現実の体制は違った。
 例えば、弱小出版社の少量出版物や、絶版本の画像変換が見れるというなら、利用者は黙っていても集まってくる。それが好循環を引き起こして市場が拡大することになる筈なのである。そんな流れを感じさせなかったのである。
 もしも、読書好きを早く取り込みたいなら、無料の青空文庫が読めるだけでもよかったのである。それだけでも、かなりの魅力が発揮できた。

 ところがである。そのような、技術的に簡単で、読書家の琴線に触れる部分はできる限りカットしたビジネスを進めたのである。
 なかでも圧巻は、著作権保護カードの読み取り機器が店頭にほとんど並ばなかったこと。これは最悪だった。買うと言っていた人が、避けたのである。
 一度こうなれば、なにをやったところで、回復不可能だろう。

 今や、パソコンも、重さ1kgを切り、充電すれば10時間持続する。特殊な規格の本しか読めない重いリーダーをわざわざ持ち歩く必然性などなくなった。
 電子書籍リーダー市場勃興のチャンスはあった。しかし、市場が立ち上がりそうもない“儲かる”プランを強行させられ、あえなく潰れたのである。これで安堵した人達が後に控えている筈だ。

 --- 参照 ---
(1) https://www.sigmabook.jp/SigmaBook/SigmaBook.do
(2) http://products.sel.sony.com/pa/prs/index.html
(3) ものづくりスピリッツ発見マガジン 35「 電子書籍への挑戦・Σの名のもとに 〜シグマブック〜」
  http://panasonic.co.jp/ism/sigmabook/index.html


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