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2006.7.20
 
 


“柔らかめの記事”に想う…

 “新聞の作り手が『読まれている』と思っている記事と、ネットでページビューを稼ぐ記事は、かくも違うのか”と語ったのは、ネット記事では先進的と言えそうな新聞社のデジタル部門のトップ。(1)

 “実際に読まれるのは柔らかめの記事や、ちょっとした話題”なので、堅い記事を読んでもらえると思っていた“新聞を作っている側からするとショック”だという。

 メディア産業外の素人には、こんなことに意外感など湧かないが、業界人は感覚が違うようなので驚いた。

 調べた訳ではないから、実態はよくわからないが、素人の目から見れば、こういうことではないのか。

 ネットで記事を広く眺める人の主流は、ブログ人だと思う。このような人達が立ち寄らないと、記事はページビューを稼げまい。
 日本のブログは見ればすぐわかるように、ほとんどは個人の生活日記だ。しかも、思索なしの、だらだら話が主体である。部外者には呆れるほどつまらぬ話題だが、仲間内では盛り上がるようだ。ヒトの、群れるのが嬉しい習性がモロ現れているようである。
 従って、このようなブログを作成する人の関心を集める新聞記事のネタは、次の2つに絞られるのではなかろうか。
 1つは、面白そうな、ちょっとした話題。
 もう1つは、誰でも知っている最新の事件に関する、極く簡素な情報。

 IT分野の記事は例外だろうが、お堅い記事には見向きもしないと思う。

 もっとも、そんな人ばかりではない。ネットでお堅い記事を読みたい人も少なくないだろう。しかし、そんな人は、海外の記事も眺める。
 すると、彼我の違いに愕然となる。日本の記事内容が余りに薄すぎるからである。その上、主張がステレオタイプ。ほとんどの記事は、読む前に、中味の想像がつく。お堅い記事から、足が遠のくのは当然だと思う。
 外国語記事は読むのが面倒だが、それだけの価値を感じている人は多いのではなかろうか。

 しかし、お堅い記事が読まれないからといって、“柔らかめの記事”記事で埋め尽くさないで欲しいものである。
 上記で述べたことが当たっているなら、日本のお堅い記事の欠陥は、新鮮な感覚や、生の主張を感じさせない点にある。それこそ、記者ブログの方が魅力的なのである。
 こうした観点で改良していけば、事態は少しずつ変わると思うのだが。

 くり返すが、下らぬ“柔らかめの記事”で埋め尽くすのだけは止めて欲しい。

 但し、“柔らかめの記事”を避ける必要はないと思う。ページビューを稼ぎたいなら、その方向に進んでもかまわないと思う。
 どういうことか、@niftyの記事で考えてみよう。

 その典型は、「チョコレートフォンデュ具検討会」といった類の企画。(2)
 キムチのチョコレートがけは美味しい、などと出演者が盛り上がる、テレビの娯楽バラエティ番組と同じノリで作成された記事である。
 但し、完全なお遊びでもなさそうだ。縁日で売られるチョコバナナが美味しいのはは専用チョコだからで、素人のチョコレートフォンデュの味は今一歩、といった新しい知見も提供されているからだ。

 この記事が、どの程度話題になったかは定かではないが、おそらく、かなりのページビューを稼いだに違いない。一般に、こうした大騒ぎものは、結構人気があるからだ。

 とはいえ、“柔らかめの記事”と言っても、新聞社はこの類の記事を掲載するのには抵抗感があろう。

 しかし、真面目な“柔らかめの記事”なら、かまわないのではなかろうか。

 例えば、珈琲おむすび(3)、「カルピス」カニピラフ(4)をタネにした企画なら、様相は一変する。
 こちらの食品も、一見、キムチのチョコレートフォンデュと同類の、お遊びに見えるかも知れぬが、実は、似て非なるものだ。

 ここには珈琲や「カルピス」に、とことんこだわる人達がいるからである。そこには、人々の明確な価値観が貫かれている。面白ければよいとか、単に商品を売ろうとの姿勢とは違うのである。
 ここが重要な点である。
 前者は、珈琲栽培に一生を捧げてきた人の話(5)である。
 一方、後者は、自社商品が持つ素晴らしい潜在力を信じて、レシピ開発に注力する企業の取り組み話(6)だ。話題は“柔らかい”かもしれないが、記者が書けることはいくらでもある。ネタが本物だからである。

 プロフェッショナルなら、“柔らかい”話題で、そこからキラリと光るものを提起できる筈だ。

 よく考えると、“お堅い”記事でも同じことが言えるのだが。

 --- 参照 ---
(1) http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0607/05/news060.html
(2) 古賀及子「チョコレートフォンデュ具検討会」Daily Portal [2006.2.13]   http://portal.nifty.com/special06/02/13/index.htm
(3) http://sukocafe.client.jp/omusubi.html
(4) http://www.calpis.co.jp/cafe/cooking/index.html
(5) T.斉藤「コーヒーおむすびとバナナの味噌汁」Daily Portal [2006.7.8]   http://portal.nifty.com/2006/07/07/a/
(6) 古賀及子「カルピス社主催カルピスカフェ試食会へ!」Daily Portal [2006.5.15]   http://portal.nifty.com/2006/05/15/a/


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