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2006.10.4
 
 


TV放送が家電産業を牽引できなくなった…

 TV番組のポータルサイトができるそうだ。(1)

 2011年に、アナログTVは視聴できなくなるとの激しい宣伝が後押ししているからか、デジタルTVが普及し始めた。その上、ブロードバンド接続環境も整ってきたから、(2)視聴者は喜んでTVをインターネットに繋ぐ筈ということらしい。
 いかにも日本らしい展開である。
 先ずは、なにはともあれ新しい放送のインフラ作りから。利用方法は後からついてくる筈という体質なのだ。希望的観測に基づいて、ともかくハコモノを作らせるのである。これが産業振興になると誤解しているようだ。

 確かに、デジタル化は流れではある。しかし、同じデジタル化でも、ISDNで大失敗した教訓を学ぼうとはしないようだ。
 日本のTV放送業界は、できる限りウエブとの親和性を抑えるなど、閉鎖的な独自インフラを追求したのである。柔軟でオープンなことで普及したインターネットのような方向とは、逆に進んだ。その結果は予想通り。折角のデータ放送も、今や話題性も失ってしまった感がある。
 データ放送が収益に寄与できそうにないなら、後は、TV番組のインターネット配信で収益をあげることしか残らないということかも知れぬ。

 もともと、インターネットでウエブを見る時間が増えれば、TVの視聴時間が減るのは当たり前だ。従って、ウエブ視聴に時間をとられないよう、閉鎖的な仕組みを作ろうとしたのかも知れぬが、逆効果だ。TVの魅力をわざわざ落としてしまった。
 そもそも、産業間や地理的な壁を取り払う流れに棹差し、独占的な電波枠を所有することで食べていこうとするのは無理筋である。飛躍のチャンスと見て、打って出なければ、そのうちジリ貧は免れないと思うのだが。

 地上波TV放送産業は保守的な業界だが、CATVはそれ以上に保守的というか、不可思議なビジネスに甘んじている。一見すると、視聴者が見たい番組を選べる仕組みを提供している事業展開に見えるが、全く違う。CATVで流せる地上波は、地域のテレビ局以外は流せないのである。地方局がCATVが流す番組を独占できる仕組みが出来上がっている。規制緩和どころか、強化一方の業界なのである。視聴者が見たい放送は流させない仕組みであり、それこそ民主主義どころの話ではない。
 難視聴対策というもっともらしいお題目でこのようなことが行われているのだが、それなら、電波が伝わりにくいデジタル地上波はもっぱらCATV網で流すのかと思うと、さにあらず。デジタル地上波が隅々まで届くように施設を次々と作るらしい。膨大なお金をこの業界に注ぎ込むことになっているのである。
 このような政策を進めれば、必ず、しっぺ返しを受けるのが歴史の教訓である。

 本来なら、いかにペイテレビ市場を立ち上げるかとか、CATV回線を用いた新産業勃興を支援するといった施策を進めるげきである。ところが、従来型の地上波放送にお金を注ぎ込み続ける。これで、新時代が切り開けるというのだ。

 要するに、政府とTV放送局は、新市場や新産業ができる限り発生しないようにしたいのである。

 日本の家電産業はTV放送受信機能を牽引車としてきたが、国内で、このような状態が続く限り、この先の発展は望み薄と言わざるを得まい。

 日本が家電の先頭を切った理由を忘れているのではないか。

 一番のポイントは、日本に、素晴らしい顧客がいたという点である。このニーズに応えていくだけで、自然に世界に売れる商品ができた。これは、欧米では無理だった。幸運そのもの。
 欧州社会では、リビングルームに、家具に合わない“機械”を置くこと自体が嫌われる。パフォーマンスが優れたTVは欲しいが、ハイテク“機械”を取り入れたいのではない。
 一方、米国は必要以上の機能は無駄と考える人が多い。ハイテクなどどうでもよく、使い道に合った機能があればよい。言うまでもないが安い製品を好む。

 これに対し、日本は、多少高価でも、技術の粋が組み込まれた新商品が好まれる。次々と新製品が売れるのだ。そして、好評な機能が残っていく。当然ながら、欧米もその機能の良さはわかるから、日本製品が席巻したのである。

 ところが、これが成り立たなくなるのである。日本で売れるTVを開発したところで、従来型の放送に対応するだけだ。そこには何の新しさもない。

 しかも、厳密な番組著作権方式を貫徹することにした。つまり、録画したところで、他の機器で再生しようとすると面倒くさいことこの上ないと言う事。今迄のような、テレビ録画の魅力が薄れることを意味する訳だ。

 しかし、世界の潮流は、こうなるとは言えまい。  どう見ても、大量のコンテンツから、自分の好きなものを、どこでも自由に視聴したいとのニーズが顕著である。日本は、このニーズに応えない方向に進むことにしたのである。このことは、日本市場対応製品をいくら開発したところで、欧米の顧客の琴線に触れる可能性が極めて低いということでもある。
 産業振興と言うが、それは国内向け産業であって、グローバルに飛躍するものではない。

 考えてみれば、ケータイと同じ道を歩まされる、ということかも知れぬ。技術の粋を喜ぶ国内顧客に応え、様々な製品を作れば作るほど、世界に通用しなくなるのだ。

 ブロードバンド普及政策も同じような展開といえるかもしれない。ともかくインフラ作りから。利用方法は後から勝手に進むというもの。
 NTTが、電話通信用の戸別引き込み線の利用と電話局での機材設置を認め、ソフトバンクが、それまでの電話接続価格の約半額という世界的に見ても驚くほどの低価格路線を展開し、ともかく高機能なハイテクが好きな国民性だからADSLの普及は一気にすすんだ。しかし、今もってブロードバンド回線を利用する仕組みで先を走る力は無さそうだ。

 これらを教訓とするなら、TVを放送の受像機器としてではなく、リビングルームの高精度映像機器と考え、新しい活用方法を開発した方がよいのではなかろうか。そうでもしないと、日本のTV関連機器産業はジリ貧に追い込まれかねまい。

 --- 参照 ---
(1) http://actvila.jp/20061002.pdf
(2) http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/pdf/060606_2_bs.pdf


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