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2006.12.21
 
 


歌合戦出場辞退理由を眺めて…

 ある商品販売のNewsLetter の“終わりに”の一文で、NHK紅白歌合戦の出場辞退理由がとりあげられていた。小生は、この番組は見ないが、出場辞退が話題として盛り上がっているようなので、一寸気になった。
 NHKへの出演に頼る必要がない歌手が増えたのは、ずっと昔のこと。出場辞退も珍しいことではない。
 従って、休暇をとりたい時に、仕事を頼まれ、それをどうやってことわるかということで、話が弾んでいるのだと思う。

 ことわり方によっては、後々、いじめられたり、干されたりするのが日本の古い風土である。そのため、体調の問題や、すでに予定が詰まっていたり、誰が聞いても致し方ない理由で丁重にお断りするのが礼儀とされている。
 そんな日常に慣れきっていると、大晦日は仕事をしないと、直裁に出場辞退する歌手の姿勢に拍手したくなら気持ちはわかる気がする。
 ・・・しかし、面白いのは、わざわざ余計なことを言って断る人も結構いる点。(1)

 例えば、「大晦日に長時間拘束されるのはいや」
 確かに、自分が歌う時間は極く僅かなのに、延々とつきあわせれる苦痛はただならないものがあろう。実に素直だ。
 だが、実質より、気配りを重視する古い世界の人達には、カチンとくる言葉だろう。しかし、それをあえて語ることが、この歌手の人気の素でもある。
 もっとも、「おせち料理を作ってます」や「恥ずかしい」といった理解しにくい発言もある。こうなると、ウケ狙いか、イメージ作り戦略に則った、周到な作戦の可能性もあるが。

 実は、関心があるのは、こちらではない。

 「テレビ神奈川の仕事がある」と答えた歌手の方である。くだんのLetterの発信人氏も、天下のNHKに対して、実に天晴れな発言との印象のようだ。

 その通りだ。
 この発言、他とは意味が大きく違うからである。ローカル局名を出したからだ。

 放送局は電波を流す送信所ビジネスをしている訳ではなかろう。本気で番組作りビジネスに賭けるつもりなら、大いにに競争すべきである。しかし、ローカル局の番組がそんなものになっているだろうか。

 「テレビ神奈川の仕事がある」は、そんな沈滞した雰囲気を一気に吹き飛ばす威力を感じさせる。

 はっきり言って、現実のローカル局の機能とは、キー局番組の垂れ流しが主体だ。
 そんななかで、“テレビ神奈川”と口から出たのは偶然ではなかろう。この放送局は、首都圏にある。自己流の番組で、キー局番組に対抗できなければ、経営は行き詰りかねないから、番組作りの真剣さは他のローカル局とは一歩も二歩も違う筈である。

 番組作りこそが放送局ビジネスの核と考えているなら、ローカル局の人気番組を全国放映できる仕組みをつくるべきだと思うが、そう考える人は僅か。つまらぬ番組の全国一律放送の方が、マネジメント能力も不要で楽だからだろう。それに、地方政治への絶大な影響力を行使できるから、経営的に傾いたところで、なんとかなるのだろう。

 常識で考えれば、これから、とてつもなく高額な地上波デジタル放送設備投資負担を背負っていくのだから、緊張感に満ち溢れていそうなものだが、機器買い替え需要の本格化で湧くメーカーと一緒になって、地上デジタル放送全国開始万歳を叫ぶのだから恐れ入る。
 デジタル化に合うような人気番組を作れる自信がありそうには見えないのだが。

 実は、そんなことをつい考えてしまったのは、「テレビ神奈川の仕事がある」と答えた歌手とは、Puffyだったから。

 Puffyは、1996年ヒットさせた 「アジアの純真」でも、紅白には出場していない。と言うより、出場しても、ビジネスとしてはマイナスにしかならなかったかも知れぬ。
 この歌手、“訴求力と同時に、個人の内面に由来する切実な表現”で限界があるとされている。“要するに歌唱力が極めて低い”のだ。だが、このことが逆にヒットの決め手になる。“当時Jポップシーンを席巻していた・・・緊張感や露骨な向上心の対極に位置する”(2)からだ。
 簡単に言えば、主流の音楽に不満を持つ僅かな層を狙ったのである。ニッチ狙いだが、それが爆発的な流行を呼んだ。

 これでご想像がつくと思うが、強烈な自己主張でファンをひきつける歌手ではない。ビジネスとして、組み立てられた仕組みに自然体でのっているとしか言いようがない。
 エンタテインメント・ビジネスとはこういうものかもしれない。
 「テレビ神奈川の仕事がある」との発言も、おそらくビジネスの一環である。

 言うまでもないが、ローカル放送局が番組作りで生きていくためには、Puffyを作る力が要求されるということである。

 --- 参照 ---
(1) Red and White Song Festiva 「歌合戦出場辞退」
  http://www.asahi-net.or.jp/~zf7j-ktwk/redwhite/decline.html
(2) Wikipedia パフィー
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC


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