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2007.8.28 |
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地デジの結末…話は古いが、1946年、白州次郎終戦連絡事務局参与が、民政局長に憲法草案の考え方についての意見を記載した書簡を送った。この情報が公開(1)され、指摘が的確だったから、一挙に有名になった。 米国流の“Your Way”は、“START”から“OBJECT”を目指し一気に進むやり方。これは、山を飛び越す“an Airway ”と見なした。 一方、松本試案は(“their way”)、日本流。山を避けながら漸進する、陸上を進む“Jeep Way”とした。 要するに、両者ともに、“START”と“OBJECT”は同じだと、図示して説得を試みたのである。(2) 良くも悪くも、未だに、この日本流が続いているのは間違いない。 ただ、昔は“Jeep Way”だったが、最近は、挫折など分かりきっているにもかかわらず、徒歩で山を越せと号令をかける政治家もいるし、故意に回り道に入り込むよう画策する政治家も少なくない。 典型例は、e-政府。予想通りの結末。 できる限りシステムを使えないようにアイデアを凝らした電子申請の仕組みを次々と構築したのである。圧巻は、10年に一回申請すれば十分な、パスポート申請の電子化。 ここまで常識的判断ができなくなっているのか、腐敗しきっているのか、はたまた、失敗させたいのか、実情はさっぱりわからないが、どうにもならない状況なのは間違いなかろう。 自民党はこうなるのを知りながら進めた訳だし、民主党にしたところで官庁で働く人達の労働組合が推す人が参院選挙でトップ当選する環境にあるのだから、実情を知らない訳がない。 どう見ても、“START”地点の認識が違うし、そもそも“OBJECT”など無いのかも知れない。 自分の地位を守りさえすれば万々歳という人達が世の中を動かしているということである。そんな時は、政治の中心にいない白州次郎型の人が、大局的立場から問題点を的確に指摘し、それに応えるかのように、非中央から、改革派リーダーが突如現れて来そうなものだが、残念ながらその兆候はない。 中央政治以上に、地方政治がどうにもならなくなっているから、そこには期待できないから厄介なのである。 しかし、ここまできても、不思議なことに危機感は薄い。 経済は好転してきたと考えている人が多いようだ。 なかでもひどいのが、自民党も民主党もお勧めしている「地デジ」政策である。 常識的に考えれば、これほど筋が悪い産業政策はないと思うのだが、全く逆に考えている人がほとんど。しかも、デジタル放送成功を祝して第2東京タワーを建てようというのだから言葉を失う。 そもそも、「地デジ」の“OBJECT”は一体なんなのだろう。 それはともかく、経済振興という点では、「地デジ」は大失敗としか思えない。・・・ ・日本の家電産業の競争力は今後急速に落ちていく。 (日本独自規格のテレビを作らざるを得ないため) ・日本のIT産業にとって飛躍のチャンスは巡ってこない。 (“anything on IP”と逆行するからどうしようもない) ・番組コンテンツ産業は新規参入できなくなり活力を喪失する。 ・地方放送局は投資を強制され、収入が減り疲弊する。 (それをキー局に「救済」させるのが“OBJECT”だろう) ・メガメディアの一部が不振となる。 業界あげての支援の枠組みが必要となり、産業が沈滞化する。 (メガ放送局化は進展するが国際的に見れば益々弱体化) しかも、空いたアナログ放送電波枠を使って、産業振興を図るのかと思っていたが、それは理屈だけ。未だに何もでてこない。漠然としたアイデアだけで、まともに考えていなかったということのようだ。 以上を、いくら説明したところで、施策を進めている人達には理解できまい。 しかし、研究者とエンジニアは、それではこまる。是非、じっくりと考えて欲しい。 別に、国の将来を考えてくれと頼んでいるのではない。自分の将来がどうなりそうか予測し、自らの判断で動いてくれるだけで十分である。 ちなみに、地デジの状況がわかるように、勝手な予測を記載しておこう。 総務相の、デジタル化は「予定どおり」(3)との発言内容を踏まえたものである。 ともかく、大臣の“OBJECT”とは、2011年7月のアナログ放送の停止らしいから、その発想でいけば次のようになるだろう。 従来型アナログテレビ受像機しか持っていない世帯は、少なくとも2〜3割は残る。番組が変わらないのに、高額なテレビに買い換える必然性はないから当然である。 仕方なく、\5,000円のチューナーを購入し、アナログテレビ受像機で視聴することになる。しかし、アンテナが必要となると聞き、購入せずテレビ無しに陥る世帯も多い。学生の単身世帯なら、それはそれで意味あることだが。 チューナーを購入するといっても1台である。しかし、テレビは複数台所有していることが多く、見れないテレビは廃棄処分に回る。ハイビジョンテレビを購入した世帯も、ここぞとばかり、皆、古いテレビを捨てる。当たり前だが、国内の処理能力がこれに応えられる筈もなく、ゴミを輸出しない限り、数千万台のテレビがゴミ処理場にあふれかえる。 そうそう、家庭の出費はチューナーだけではない。アンテナの取替えが必要となる家庭も少なくない。取り付け費用も入れて、さらに余分な出費が\10,000はかかろう。 もっとも、アンテナを立てても映らない地域もある。そうなると、CATVに無理に加入させる自治体もでてくるだろう。無料でないならCATVには加入しないという家庭が多く、そのままにしていると、無テレビ家庭が大量に発生しかねないからである。 CATVがまだ入っていない公営住宅も多いが、そこでは共同視聴アンテナの改修が必要となる。この費用負担をめぐって紛糾必至。勝手にアンテナをつけ始める家庭もでてくるだろう。このため、社会問題化する。 言うまでもないが、こうまでしてアナログ放送を打ち切るのだが、アナログ用受像機をそのまま使う家庭では、テレビ画像の質は、今迄より相当悪化する。費用と労力を負担させられ、テレビは1台になり、しかも見づらくなるのである。 しかし、それでも、テレビを見ようと思えば見れる家庭はまだ幸運である。 全体の数パーセントの家庭はテレビはあきらめるしかない。地デジの電波が届かないからである。人口1億を越す国だから、この数は小さいとは言い難い。 なにせ、電波の中継局工事はさっぱり進んでいない。全国津々浦々までテレビが映ることはあり得ないのである。例えば、離島は、あきらめてもらうしかない。たとえお金を出しても、そこまで手が回る筈がないのである。法律上、アナログ波を送ることはできないのだから、法治国家としてはいかんともしがたい。 とてつもない年月と膨大な費用をかけて順次整えてきた、全国民視聴体制だが、又ゼロから出発するのだから、こうなるのは当たり前の話。もともと難視聴だった地域は、昔に戻るということ。 そして、アナログ電波送信停止を目前に控えた1年間は大混乱に陥る。と言うのは、\5,000円チューナーの必要量が提供できないからである。これは価格の問題ではなく、供給体制を欠くからである。日本独自規格の製品を、一過性需要に応えるために、生産能力増強など図れる訳がない。増強投資すれば、その後どうなるかは知れたこと。 現行の生産設備を日本向けに振り向ければ、海外市場でのシェアが急落するだけのこと。 もちろん、価格も問題である。できるできないの話ではない。日本市場にしか通用しない製品は高止まりするのが経済原則であり、この経済原則を破れば、そのツケは後から数倍になって返ってくる。ともかく、地デジのお陰で、日本のテレビは、世界で一番高価なテレビになる宿命なのである。 ここで、安価を要求すれば、日本の家電産業の競争力が落ちるだけ。 常識的には、政治家が、選挙で票を失う行動をとる筈はないから、どうなるかはいわずもがな。 ともかく、どうなるにせよ、日本の家電企業は、地デジ対応を続けざるを得ず、米国と欧州の2つの規格の大市場に全面的な注力はできない。デジタルテレビは半導体で勝負する世界だから、日本企業の収益性は落ちるのは間違いあるまい。いくら放送局用の分野でリーダーの地位を保っていようと、家電分野での競争力低下は避けようがないということ。 その力量低下をカバーできる戦略的展開に失敗すれば、没落する危険性さえある。 これが、地デジという名の産業政策である。 --- 参照 --- (1) “3-17 「ジープ・ウェイ・レター」往復書簡” 国立国会図書館『日本国憲法の誕生』 http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/080shoshi.html (2) [白州書簡の写真]http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/080/080_002l.html (3) 菅総務大臣閣議後記者会見の概要 [2007年8月3日] http://www.soumu.go.jp/menu_01/kaiken/back_01/d-news/2007/0803.html (テレビのイラスト) (C) 3D+WEB MIX http://webweb.s92.xrea.com/ メディア業界の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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