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2008.10.2
 
 


雑誌不況の意味…

 最近、雑誌不況との記事をよく目にするが、情緒的な話や、論点がごった煮状態のものが多い感じがする。
 なかには、赤字の看板誌を捨てざるを得なくなったことを「不況」として論ずるものもあったりする。役割を終えた雑誌が廃刊になっただけではないのだろうか。
 部外者から言えば、このような雑誌を続ける方が問題ではないかと思うのが。読まれなくなった雑誌を、面子で続ける経営を賞賛すべきではなかろう。
 と言うことで、この問題を少し整理してみたくなった。

 一番の疑問は、「不況」と称しているビジネスセンス。数値から言えば、雑誌の発行部数が減っているのだろうが、それは当たり前ではないか。
 典型例はパソコン雑誌。まさに驚異的乱発だとは考えないのだろうか。小生は減って当たり前だと思うが。
 なにせ、中身はほとんど広告。しかも、たいして代わり映えもしないのだ。こんな雑誌を何冊も購入し続ける人が沢山いたのである。
 今やパソコンなど家電製品と変わらない。一般人として使うなら、安くて動けば結構というだけにすぎまい。ぶ厚いパソコン雑誌など邪魔もの以外のなにものでもなかろう。と言っても、もちろん必要な人は大勢残る。それは、鉄道ファンや無線マニア向けの雑誌とか、テレビ番組紹介誌と同じ位置づけだ。自作パソコンやソフト活用の実務家向け雑誌が何種類もあって、大量に売れる時代は終わって当たり前。
 この現象を不況とは呼べまい。

 もう一つ例をあげよう。それは、コミック誌。漫画といっても、読んでいる大半は大人だ。多分、時間つぶしでもあろう。子供ではないから、好きな連載もの以外には、さほど興味を覚えることはあるまい。従って、急いで読まないと面白さ半減ということでないなら、単行本でもかまわない筈。雑誌を買う人が減っていくのは当然だと思うが。

 ただ、こんな話をしても、おそらく、業界人にはなんのインパクトもなかろう。気にしているのは、硬派の雑誌や、歴史あるジャンルだからだ。
 外部から見ると、この発想法自体が不調の原因ではないかと感じる。現実を見ようとしていないからだ。
 日本の出版社の主流は、なんでも出版屋である。パソコン雑誌が流行れば、皆、狙う。その結果、同じような雑誌が本屋の棚にゴチャゴチャ並ぶ。下手な鉄砲も数打てば当たる式の事業展開だ。ほんの一握りの専業出版社と、イデオロギーに凝り固まった出版社を除けば、特徴などほとんど感じられないのが現実。従って、硬派だろうが、伝統だろうが、底は浅い。
 そんな状態で、看板雑誌などなんの意味もない。

〜 女性誌の例 〜
光文社
>>>
JJ, CLASSY, VERY
STORY, HERS
「女性自身」, (Mart)
主婦と生活社
>>>
すてきな奥さん, JUNON, ar
40代からもっと きれい
(ナチュリラ), 「週刊女性」
小学館
>>>
PS, CanCam, AneCan
Oggi, Domani, Precious
美的, 和樂
FAnet, 「女性セブン」
講談社
>>>
ViVi, with, Style, FRaU
Grazia, GLAMOROUS
(VoCE)
集英社
>>>
PINKY, SPUR, non・no
BAILA, LEE, marisol
SEVENTEEN, SPURLUXE
MORE
(MAQUIA), (eclat)
[duet, Myojo, Cobalt]
主婦の友社 ハナチュー, Cawaii!, Ray
mina, GISELe
Como, ゆうゆう
マガジンハウス GINZA, BOAO, anan
クロワッサン
クロワッサンPremium
アシェット婦人画報社 25ans, ELLE JAPON
marie claire, 婦人画報
文化出版局 装苑, ミセス
世界文化社 MISS, GRACE, 家庭画報
新潮社 nicola, S Cawaii!
学習研究社 ピチレモン, POTATO
徳間書店 ラブベリー
祥伝社 Zipper
双葉社 JILLE
扶桑社 (ESSE)
角川エスエスコミュニケーションズ 毎日が発見
文藝春秋 CREA
中央公論新社 婦人公論
PHP研究所 PHPスペシャル
(注意: この他にも女性誌カテゴリーに入るものがある.)
マタニティ・育児, 生活実用情報
ビューティ・コスメ, ナチュラルライフ
 その状況が一目瞭然なのが女性誌の出版状況。[右表]
 残念ながら読者ではないから、どんな雑誌なのか皆目見当もつかないが、考えられそうなセグメントには、なんでも出した状況なのでは。あるいは、他社が当てたら、同じようなものをすかさず出しているのかも。
 どもかくはっきりしているのは、これだけ沢山ある雑誌を、普通の店や、ましてや駅の売店やコンビニに並べることは不可能であるという点。にもかかわらず、各社とも潰れずやっていけるのだ。
 これで「不況」と言えるのだろうか。

 先ずは、この認識が出発点ではないか。

 そもそも、購買者数が減ったからといって、儲からない事業になる訳ではない。
 1980年代の話で恐縮だが、赤ん坊の数が減るからどうしようかと悩んでいる人達と議論したことがある。小生のような外部の人間は、売上げ倍増のチャンスと主張したが、素人の勝手な意見として聞く耳持たず。波長はさっぱり合わなかった。数量が減るから、不況業種化間違いないという頑固さには驚かされた。

 女性誌よりもっと凄いのが、ゲーム雑誌だ。マニア2人で作れそうな雑誌が雨後の筍のように登場した。安直な企画で儲かるのだから、皆手をだす。これこそ日本の出版社の一番の得意技。
 この体質の組織で、大勢の専門家が集まり、たいして部数がでない雑誌の仕事をまともに進めることができるだろうか。大いなる疑問である。
 質の高いものはコストは嵩む。そのコストをカバーするためにどうすべきか知恵を出せないなら、止めるべきである。

 と言っても、「不況」論者が言いたいのは、「硬派」のまともな雑誌が消えゆくのは耐え難いということだろう。読者よ見捨てるつもりかと口から出かかっているのかも。

 しかし、これも勘違いだ。
 質の高い雑誌を読もうと考える人の数など、もともと知れたもの。その少数の人達を対象にして儲かるビジネスを展開するしかないのである。
 当然ながら、読みたい人にずっしり感を与えるような、個性豊かな雑誌にする必要があろう。廃刊雑誌とは、そうとは言い難い。

 例えば、“Rolling Stone”(1)という米国の雑誌がある。小生は買ったことも、見ることもないが、毎号必ず購入する人がいることで有名である。それは、雑誌を購入すること自体が文化だからと言われている。重みがある雑誌なのだ。
 “Rolling Stone”文化が廃れれば、消え去る運命と言えそうである。しかし、衰微傾向が顕著になったからといって、廃刊の道に進むとは限らない。文化的基盤が強固なら、生き続ける可能性の方が高いのである。ここがポイントである。
 他業種でいえば、こんなことか。1980年代のことだが、ブラウンリカーの消費大激減が予測されていた。酒類メーカーなら、ホワイトリカー事業強化に進む。しかし、ブラウンリカー文化を売っている企業はそれはできない。普通は、特徴ある、高級モノに進むだけ。そして、新しい文化を発信することになる。  普段は薄いホワイトリカーをお飲みになるでしょうが、ここぞという時だけ、少量の高級なブラウンリカーで愉しんで下さい、となる訳だ。自分達の文化の強さを確信しているからこんなことができるのである。

 要するに、「不況」にあえいでいる雑誌事業とは、文化を売ると称しているだけで、現実にはそんなことはしていないのである。
 おそらく、取次への影響力を駆使する、印刷物配布ビジネスに近い。次々と新しいタネを拾っていくだけのこと。
 このタイプの出版社が多いということは、もしかすると、取次にとっては雑誌分野は「不況」ではないかも。配送効率向上と売れ筋確定技術を磨けば、収益が上がる可能性があるのではないか。

 このなんでも出版体質が続く限りは、雑誌「不況」感はぬぐえないと思う。
 それに、もっと問題なのは、インターネットが顧客を奪っているという感覚。こんなマイナス思考では、顧客と深く繋がることができる、インターネット活用のチャンスも失っていくに違いない。

 それに、インターネットばかりに注目して、一番の競争相手を見ていない点も気になる。今や、家庭は、無料雑誌で溢れている。様々な業種が、色々なチャンネルで届けてくるから、その量はただならぬものがある。しかも、その質は上昇一途。
 特に、情報満載のビジュアル型カタログなど、有料雑誌より優れていそうに見えるものも少なくない。
 読み物が濃いということで、大人気の街角配布雑誌も生まれている。風呂やトイレでも気軽に読めると好評だとか。確かにパソコンは風呂には持ち込めない。
 さらには、有料通販カタログでの政治討論が結構読まれていたりする。皆、工夫して質の向上に励んでいるのだ。
 おそらく、有料雑誌にも、そんな努力を積み重ね、独自文化を形成しているものがある筈だが、おそらくほんの一部なのだと思われる。そして、そんな動きをかき消すように、次々と、手を変え品を変えた新雑誌が登場しているようだ。

 --- 参照 ---
(1) SARAH ELLISON: “Rolling Stone/Japan”
  http://online.wsj.com/public/article/SB117280156498624331-a4RpBbJo7rJ_IYaajKa3yQZp2Ak_20070309.html
  [日本版] http://www.rollingstonejapan.com/
(女性誌のリスト) http://www.j-magazine.or.jp/magdata/?module=list&action=list
(書店の書棚に並ぶ雑誌の写真) [Wikipedia] photo by Christian Bohr (Thommess)
   http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Zeitschriften.JPG


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