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2009.3.2
 
 


マンガ産業を考える…

 出版物の4割はマンガだという話を耳にした。調べる気力が湧かないので正しい数字なのか全くわからないが。
 マンガを読まない人間にはオーバーな数字に聞こえるが、桁違いの発行部数のマンガ雑誌の発行部数ををカウントすれば、そうなるのかも。科学書や文学書のマンガ化されたものを見かける位だし、マンガ広報誌も少なくないから、妥当なところか。

 ところが、そのマンガ雑誌市場が急速に萎みつつあるという。

 まあ、当然の流れではないか。いくらマンガ好きが多いとはいえ、ここまで沢山出版されれば、市場は成熟化を通り越し、衰退へ進んでおかしくあるまい。
 そもそも、マンガばかりに、お金を使う訳にもいかないだろうし。
 常識的なレベルに戻りつつあるのだと思う。

 ともかく雑誌は多い。マンガ出版で圧倒的な力を持つと言われる集英社を見ても、少年、青年、少女、女性コミックの4ジャンル毎にそれぞれ3、5、6、2種類のマンガ雑誌を出版している。(1)
 少女コミックで、この出版社だけで、1ヶ月間に、10もの雑誌が発売されたりするのだ。これを全て購入する人がそうそういるとは思えない。
 それこそ、一時期、雨後の筍状態だった、パソコン雑誌と同じようなもの。そんな、ブームがいつまでも続くことはなかろう。

 〜読書アンケート結果から孫引:(2)〜 
- 小学生 - [全国] [帯広]
非漫画 月7冊以上 43.3% 13.2%
漫画 月7冊以上 16.4% 49.4%
- 中学生 -
漫画 月0冊 52.3% 8.4%
漫画 月7冊以上 10.3% 44.1%
 そもそも、中学生になれば、半分以上がマンガを読まなくなるのである。マンガより面白いものの存在に気付く子供も少なくないということだろう。

 その一方で、少数だが、マンガにのめりこむ層が形成されるのだ。全国で見れば、月に7冊以上マンガを読む生徒が1割にのぼる。だが、この数字は要注意で、地域的にかなりの偏りがあるのだ。
 なにせ、マンガ耽溺生徒が44%に達している地域もあるのだ。

 そんな地域の子供の特徴は以下のようなものらしい。教育者は、どうすべきか頭をひねっているようだ。(3)
   ・家で自分で計画を立てて勉強する傾向が低い。
   ・平日に家や図書館で全く読書をしない傾向が高い。
   ・海、山、湖、川で遊ぶ等の自然体験が少ない。
 要するに、楽しみのバラエティが無いのである。

 このようなマンガ耽溺層に需要を依存しているとしたら、市場が飽和から衰退に転じておかしくなさそうである。
 ただ、実際のところどうなっているのか、市場データはほとんど無いのでわからないらしい。(4)

 ともあれ、末端顧客の需要が落ちるなら、マンガ業界の活力が削がれていくのは避けられまい。イノベーティブな仕組みや、斬新なジャンルでも登場させ、市場活性化に奮闘しない限り、この流れは止めることはできなかろう。

 そんな情勢下、業界人は、マンガ雑誌の衰退が引き金になって、急激な沈滞をもたらすのではないかと心配しているようだ。
 その気持ちはよくわかる。マンガ産業は、雑誌から始まるからだ。
 雑誌に連載されるようになると、単行本化され、人気がでれば、テレビアニメ(あるいはドラマ)として放送にのり、さらに映画化され、最後はビデオソフトとして売られる。その力を活用し、キャラクター商品(玩具やゲームも)にも展開していくことになる。雑誌が不調なら、新しいものが生まれなくなるかもしれないのだ。

 映画産業への影響も少なくない。
 2008年の映画の興行成績を見ると、155億円の大ヒット、「崖の上のポニョ」は別格のトップだが、10億円以上28作品のなかに、2位から、マンガ雑誌由来作品がずらりと並んでいるからだ。(5)
 ・テレビドラマの映画化作品: 77.5+23.4+17.2+10.0億円
   -花より男子(原作: 集英社「マーガレット」掲載)
   -デトロイト・メタル・シティ(原作: 白泉社「ヤングアニマル」掲載)
   -クロサギ(原作: 小学館「ヤングサンデー」掲載)
   -砂時計(原作: 小学館「別冊少女コミック」掲載)
 ・アニメシリーズ作品: 48.0+33.7+24.2+14.5+12.3+11.6億円
   -ポケットモンスター
   -ドラえもん
   -名探偵コナン
   -ゲゲゲの鬼太郎
   -クレヨンしんちゃん
   -NARUTO-ナルト
 ・マンガの映画化: 39.5+31.0億円
   -20世紀少年(原作: 小学館「ビッグコミックスピリッツ」掲載)
   -デスノート(原作: 集英社「週刊少年ジャンプ」掲載)

 つまり、映画市場全体を支えたのは、「崖の上のポニョ」と上記の作品群ということ。マンガ系作品は、家族、友人/カップルで“シネコンに映画を見に行く”というイベント需要に最適ということだろう。
 ここに、魅力的なマンガが登場しなくなれば、映画市場全体も沈滞する可能性がありそうだ。

 一方、家庭でのビデオ視聴は減っている。激減と言ってもよさそうな数字である。
 そのなかでは、アニメ系DVDは健闘してきたようだが、(6)状況が良いとは言い難かろう。

 マンガを読まない人間から見ると、こうした流れを変えるのは難しそうに思う。
 マンガ雑誌をチラリとしか眺めたことはないが、まともに読んで見ようという感じがしないからだ。質の低さに唖然とさせられるからと言ったらよいだろうか。
 しかも、ジャンル分けができていない。どう見たところで、少女とか、少年という分類に意味はない。そこは、なんでもありの世界だからだ。頁をめくれば、エロ、グロ、暴力と、まさに様々。
 そんなジャンルの商品は昔からあった筈だが、それが表立って出ることはなかった。そんなものが、大市場になるなら、どうかしている。そんな出版ビジネスが長続きする訳がなかろう。

 マンガ専門家は必ずしもそう見ている訳ではなさそうだが、 博打商売と見なしているようだ。“戦略もなにもなしに、兵隊をただ敵陣に突っ込ませていた旧日本軍と大差ない”(4)経営だという。それでも大いに儲かるのだから、歪んだ産業なのだろう。
 おそらく、この歪みを支えているのは、テレビだ。マスコミの力を活用すれば、安直な企画で大いに儲かるので、ビジネスとして重宝しているということだと思う。
 それが、ほつれが見えるようになってきたということ。この業界に、新しい息吹を取り込む必要がでてきた訳だ。

 対処は急がないと間に合わないかも。アニメの海外市場の先行きに黄色信号が灯ったようで、「このままでは、日本のアニメを日本の市場だけで売る一昔前に戻るかもしれない」そうだ。(7)
 その指摘は当たっていそうな感じもする。
 もともと、米国の日本マンガ市場は、どう見たところで出版業界から見ればニッチ。そこでだけ見れば、VIZ Media社(8)のマーケティングは大成功している。
 だが、その結果として、売れ筋は、「Naruto」のような特定4〜5作のシリーズものに偏っている。(9)しかも、顧客層はティーンズ止まりの感じがする。伝統的なスーパーヒーローのアメリカンコミックを代替した訳でもないようだ。
 どうも、日本マンガの底辺は薄そうなのである。そして、日本のアニメとは、マンガの力に全面的に依拠しているのだ。

 --- 参照 ---
(1) 集英社マンガネット http://www.s-manga.net/
(2) 「帯広の子供は漫画好き? 市図書館小・中学生アンケート」 十勝毎日新聞社 [2009年1月23日]
   http://www.tokachi.co.jp/news/200901/20090123-0000470.php
(3) 「平成20年度全国学力・学習状況調査について」 帯広市教育委員会 [2008年9月]
  http://www.city.obihiro.lg.jp/mpsdata/web/987/h20-4-gakuryoku-test-result_1.pdf
(4) 中野晴行: 「まんが王国の興亡−なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか」
  eBookjapan http://www.ebookjapan.jp/shop/special/page.asp?special_id=itv003
   [注意] 50ページまで立ち読み可能. ただeBookなので, 「ebi.BookReader」のインストールを要求される. [登録不要]
(5) 日本映画産業統計 http://www.eiren.org/toukei/index.html
(6) 「データで見る日本のアニメの発展」 日本動画協会
  http://www.aja.gr.jp/data/doc/data_japan_taf2008.pdf
(7) 岡田有花: “日本のアニメが世界に「売れない」 生き残りの道は ” ITmedia [2009年1月28日]
   http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0901/28/news115.html
(8) http://www.viz.com/
(9) “ICv2 Insider's Guide: Top 25 Manga Properties of 2008” ICv2 [02/06/2009]
   http://www.icv2.com/articles/news/14245.html
   “BookScan's Top 20 Graphic Novels for January 2009” [01/25/2009]
   http://www.icv2.com/articles/news/14161.html
   “ICv2's Top 300 Comics & Top 100 GN's Index” [01/27/2009]
   http://www.icv2.com/articles/news/1850.html
(グラフの出典) ビデオソフト売上統計 日本映像ソフト協会
  http://www.jva-net.or.jp/report/videomarket_2.pdf
  http://www.jva-net.or.jp/report/monthly_2008.pdf


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