■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2012.9.6 ■■■

   正真正銘の木

正真正銘の木とは、古代から連綿と生き続けてきた樹木という意味。当たり前だが、広葉樹は新しい木だから該当しない。といって、単に針葉樹ならOKとはいかない。いかにも常緑の針型という葉でないと。マツはその候補だが、ヒトが手を入れないと樹形はビシッとしないのが大きなマイナス点。マツは新参者の範疇なのである。
それに対して、生き残り組みは、手入れを怠ってもそれなりに整った樹形になるもの。乱れを感じさせない円錐形を作りだすのである。

そんな木として有名なのは、なんと言っても南洋杉か。イル・デ・パン(ニューカレドニア)の風景として余りに有名。約2億3千万年前の三畳紀の生き残り樹木と言われている。しかし、日本の樹木ではない。

多少、崩れた円錐の感じが出てしまうが、巨大樹に育ち易いので人気があるのがメタセコイア。新生代第三紀層の化石としては、日本でも存在してる。だが、現存しているのは輸入モノ。第二次世界大戦後のことだが、大流行で、今や、どこでも見ることができる。そのため日本名も追加された。曙杉、あるいは、一位桧。
ちなみに、スギは針的な葉ではないし、手を入れて育てると見事な円錐形になるが、幹は円錐でなく円柱。材木としての実用性では素晴らしいが、化石時代からの性質の伝承という点では今一歩。

この2種は、純輸入品種だが、準輸入品種もある。イチョウだ。東京都の木として制定されている位だし、街路樹やお寺の境内でよく見かける上、葉っぱマークのゴミ収集車が走り回っているから、日本の在来種と勘違いしやすい。
イチョウ葉エキスがお好きな欧州の国もあるから、そちらから来たのかと想像したりするが、全く逆で、欧州のイチョウは日本の輸出品種。
そもそも、輸入が何時ごろかは記載が見つからないのではっきりしていないが、中国からの持ち込みであることはほぼ間違いない。従って、イチョウという名称は外来語。ただ、発音しやすいように勝手に改変している筈である。
オッと、説明しておかないと、葉は針の形ではないし、落葉する木をどうして話題にするのかと言われかねないな。・・・この木は特殊。裸子植物なのだ。葉の形が独特なのでわかるように、そんじょそこらの広葉樹と一緒にされてはこまるのである。なんと、約1億5千万年前のジュラ紀に繁栄していた樹木である。
そのような木に対して、どういう訳かしらぬが、名札をつけたがる人は少なくない。イチョウという名称を知らないような人に、木の名前を教えても無意味ではないかと思うが、ナンダカネ。無粋を通りこして、囚人標識をつけているようなもの。
まあ、何をされようと気にせず、生き抜いてきた木である。強靭な生命力は特筆モノ。アカマツなどヒトに守ってもらっても都会では生きていけないようだし、クロマツは少しは強いようだが、イチョウはその上を行く。寿命は長い。

うーむ、非日本樹木の話をしすぎてしまった。前置きはいいから、早く、正真正銘の日本の樹木の話に入れと言われそう。

そのお答えは、コウヤマキ。
葉は針よりは多少は太いが、多本葉マツ的な枝ぶり。剪定で形をつくることもできるが、だまっていれば美しい円錐形で、いかにも樹木の基本形。
もちろん、それだけではない。第三紀には北半球に広く分布していた木なのだ。今やそれは褐炭と化してしまった。ただ、その例外の地がある訳。それが、日本と韓国済州島。
これぞ正しく、日本の正統派樹木と言ってよかろう。従って、その名称は、当然ながら、「真木」。しかし、他の木を本流としたい人もいて、勝手に贔屓の樹木を一般名で「真木」と読んだりするので、宗教性を与える意味でも、高野山という地名をつけるようにしただけの話。
もともと、朽ちにくいので、古代貴人のお棺に使用されていたから、仏性がありそうな樹木イメージも醸し出せるし。なかなか上手なネーミング。空海は、中国から3本葉松を導入して樹木信仰を呼び覚ましたが、日本独自の種であるコウヤマキにもその役割を担わせた訳である。

そんなことが切欠で、京都では、お精霊さん期(盂蘭盆会)には、大椿山六道珍皇寺(六波羅蜜寺)で水塔婆に戒名を書いて頂き、迎えの鐘を鳴らして、依代たる「高野槙」の枝をもらって帰り、家の仏壇に祀る風習が始まったのだと思われる。もともと、仏様に常緑の枝を供えることになっているが、お墓の場合は、畜生除けということで、広葉樹のシキミを選ぶことになる。もちろん、このシキミを仏壇用に使えば長持ちするから嬉しいが、あいにくと毒性が強すぎ、口にふれたりすると大事。お墓や宗教施設なら問題はないが、家に持ち込むのは問題ありということで、盆地の暑さの中でも、水に挿しておけば長持ちする樹木ということでコウヤマキを選んだにすぎないと思う。

尚、コウヤマキ以外のマキとしてはイヌマキや短い葉のラカンマキがある。葉が多少太めで深緑色も褪せた感じがする。犬マキに対比すべきコウヤマキの名称は、通説では本物ということでホンマキと名付けがちだが、理屈から言えば狼(大神)マキということになる。それだけの気高さを感じさせる木なのである。


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