■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2012.9.12 ■■■

   カミの木

カミの木といっても、紙であって、神ではない。しかし、葉と根の図案が諏訪大社のご神紋に使われているので、まるっきり神とは縁遠いという訳でもない。
そんな樹木の名前はカジ。

特段、珍しい木ではない。そう言われると、公園の樹木にカジノキと記載された名札がぶる下がっていることを思い出す方もおられよう。まあ、わざわざ銘板をひとつづつ丹念に読む人も少ないだろうから、自分の家紋として知っている方を除けば、一般の人々には余り知られていない木ではなかろうか。そんな木を公園作りのプロがわざわざ植えたりすることは無いだろうから、公園になる前に、有用な木としてそこここに植わっていた頃のなごりと見てよいだろう。
ただ、そんな木にもかかわらず、つい記憶に残ってしまうのは、銘板に「用途:紙」との説明があったりするから。和紙といえばコウゾ+ミツマタだが、一体コリャなんなんだとなるからである。と言っても、それ以上追求する気も湧かないだろうが。

しかし、もし、一寸調べたりすれば、さらにコリャなんなんだ感が増幅される。もちろん、コウゾ同様に和紙の原料だったことが確認できるという話ではなく、生葉が「紙」代用品として使われていることに気付かされるから。
七夕の短冊として、詠んだ歌を葉に直接書き込んで、笹にぶる下げる貴族的風習があったらしいのだ。冷泉家の場合、それを洗練された形式にして、現代まで連綿と続けているそうだ。そう言えば、と思い出す方もおられよう。
もちろん、葉に一筆書くための墨は特殊なモノではない。カジの葉の表面に密集して生えている産毛に墨汁が乗るだけのこと。他にも同じような性質の葉はありそうなもので、なにもわざわざカジを選ぶ必然性もなさそうだが、よくよく葉の形を見ると納得。土偶のようなヒト型というか、呪術に用いる紙とよく似ている。
これにはビックリ。

間違えてはこまるが、この風習に驚いたのではなく、葉の形状。公園に生えているカジの木の葉がそんな形状だったとは露知らず。それを知って、じっくり眺めるようになると、老木だと他の木々とほとんど同じ広葉だが、ヒト型の葉がついている樹木もあることがわかる。つまり、葉の形状は、個体差が大きいということ。と言うか、一本の木のなかでも形は一様ではない。・・・そんな訳のわからぬ樹木があることを初めて知った。

このヒト型葉だが、桑にも出る。ただ、野生のヤマグワではなく、栽培種のマグワの方。それに、コウゾの幼木。と言うことは、純粋種のクワを作出すればずべての葉が非ヒト型で、同じく純粋なカジはヒト型とは言えまいか。要するに、現時点のカジ、コウゾ、クワはなんだかわからぬ滅茶苦茶な交雑種ということ。
考えてみれば、それはありそうなこと。紙製造技術とコウゾが伝来したのは7世紀で、クワの養蚕は中国渡来だろうが、魏志倭人伝以前のこと。おそらく、それらよりずっと前から存在していたのがカジ。この3種、植物学上はすべて同類だから様々な雑種が生まれておかしくない。というか、昔は、カジとコウゾは別な樹木と考えられていなかったかも。現在の分類ならコウゾでも、樹皮が剥がれやすい木ならカジと呼んでもおかしくなかろう。専門家でも、カジの木とコウゾを混同する位らしいし。

そうそう、この、「紙の原料」という指摘にも注意が必要そう。
倭人はもともと文字を必要と考えていなかった訳だから、字を書きとめる紙はなかった訳だが、不織布のような布と、ラフな織物は存在していたと思われる。
前者は、まあ紙のようなものである。太平洋の無文字島嶼文化が出自と見なせそう。ハワイ文化の紹介の際に登場する、樹皮を叩いて作った不織布「tapa」が存在する以上、それは否定し難いものがある。ハワイ語の辞書を見ると、使われた樹木は「wauke」で、当然ながら、それはカジの木。
と言うことは、倭人の世界では、小奇麗な「tapa」布や、カジの樹皮を繊維にまでほぐしてから編んだ織物もあったに違いない。それこそが、ユフ(木布)であり、タフ(太布)なのでは。万葉集に登場することで有名な香具山のシロタエ(白栲)とは、水で晒した太布製着物ということになる。
一方、紙的な不織布のユフは、ヌサ(幣)類に用いられたのでは。手持ちで振る用具用ヌサの場合は麻の長繊維を使用したに違いないが、固定するヌサの場合はユラユラする必要があるからユフしかありえまい。カジは、神を迎える儀式において極めて重要な役割を果たしていたということ。
[尚、カミソ(紙麻)は、草の繊維製品と考えるべきだろう。琉球では布製品としては、芭蕉布が有名だが、ハワイにおけるバナナ利用と同じようなもの。繊維化技術渡来後の対応製品だから、古来からの伝統儀式に使うものではなかろう。]


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