■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2012.9.14 ■■■ 楊枝の木 つまようじ(爪楊枝)の元は釈迦牟尼が指導した歯間清掃用具らしい。アジア各地に、仏教と一緒に伝わったとされている。 今やその面影などなにもなく、安価な商品が出回っている。その手のモノは多分シラカバ製だと思われるが、原材料がなんだかわからないものが多い。それに、製造元不詳な無保証品も少なくない。余りに白くて、産業用の漂白剤を使ったのではないかと疑いの眼で見たくなるものも。 そんなこともあるのか、樹木製品でなく、わざわざ烏賊の骨製を出すお店もある。流石、なんでもありの日本市場である。 そうそう、ドラッグストアに行けば、本格的に清潔にするためのプラスチック製用具も揃っている。この場合は、楊枝とは呼ばないかな。 歯と歯茎を守るために、是非にもお使い下さいと言うのがメーカーの提案だが、消費者にしてみれば持ち歩く面倒さがあるので、口腔衛生に関心が高い家庭内で使われる程度に留まっている模様。 一般的には、楊枝の高級品はクロモジとされる。しかし、これは和菓子用のミニナイフ&片歯ホークといったところで、形態は似ていても本来の用途は違う気がする。しかも、樹皮をわざわざ残すことで、お洒落感を出しているし。と言うか、極めて薄い微妙な柑橘系的な香りを感じさせるための技かも。折角そこまで気を遣っていても、残念ながら、現代人は鼻の能力が落ちているため、単に高価なだけの使い捨てカトラリー以上の感慨を覚えないのが普通。 おっと、肝心な「楊」を解説せずに、周囲の話にこだわってしまった。話をそちらに向けよう。 この漢字はヤナギ。「柳」はシダレヤナギだから、本来は、それ以外のヤナギを指す訳だ。しかし、素人的には、どちらもヤナギでよいだろう。 このヤナギ材だが、割り易いので細かな材をつくるのには便利だ。しかも、一見堅そうな材質だが、トゲトゲしさは無いから歯茎を傷つける心配もなさそう。その上、弾力性があるから、歯間清掃用具としては優れている。 流石の選択と言いたいところなれど、実際は、お国によって材はマチマチで、ヤナギに決まってはいないそうである。その選定基準は材の物理的な特徴ではなく、もっぱら薬理作用らしい。ヤナギにしても、炎症を抑えるサリチル酸の元になる成分が入っているから選ばれたようだ。 まあ、日本の場合は、テーパー加工や、持ち手部分に筋をつけたりと、細かいところに矢鱈に凝るから、それだけではすみそうにないが。おまけに縁起担ぎ大好きとくるし。 柳箸を正月に限って使うような習慣も、他国には残っていないのではなかろうか。両端にテーパ加工し、歳神様と自分が同じ箸で共食している感覚を醸しだすなと、色々と工夫もつきないし。(お箸屋さんの話では、柳箸はヤナギの木でなくミズキなんだとか。別に、都合でそうなったのではなく昔からだと。そんなことだとは露知らず。体裁だけ整えておけば気分的に落ち着くということか。) もっとも、日本で楊枝の材について検討を重ねるようなことはしていないと思う。海外の先進文化重視姿勢がはっきりしているから。そもそもヤナギ自体が渡来樹木だし。 それまでは、歯磨きには、爪磨き用具として重宝しているトクサを使っていて特段問題もなかったと思われるが、中国の生活状況を知ったとたん、俄然、ヤナギ最高となったと思われる。 ただ、ご存知のように、ヤナギ伝来の意義は、楊枝用材ではなく、都の街路樹。その感覚は万葉集の歌を読めば一目瞭然。 春の日に 張れる柳を 取り持ちて 見れば 都の大道し 思ほゆ [大伴家持@越中 #4142] ももしきの 大宮人の かづらける しだり柳は 見れど飽かぬかも [作者不詳 #1852] 都では、街路樹であるヤナギの生命力を頂戴すべく蔓に枝を挿す装いが突如大流行するほど、爆発的人気を博したのである。 驚くのは、そんなファッショナブルで元気溌剌イメージで出発したにもかかわらず、結局のところ、冥界の入り口の木として幽霊登場シーンに登場する樹木とされてしまったこと。これも又輸入学問を日本的にアレンジしたものと思われる。中国の動向を踏まえてはいるものの、西洋の冥界感覚も取り入れていそうだから実に面白い。 その時々のムードでいかようにも変わるのである。 現代でも通用している「柳」のイメージとしては以下のようなものが渾然一体化しているといったところか。 ・銀座中央通り街路樹 京都なら、白川沿いの阿闍梨橋辺り ・六角堂の縁結びの柳 ・花札の霜月(俗称は雨) 柳に小野道風(葉に跳び付く蛙)・・・ご教訓 柳に燕・・・中国定番の柳燕図 カスあるいは鬼札(シュール)・・・赤と黒 ・柳背景の幽霊絵・・・冥界からの訪問者 ・広重の嶋原出口之柳・・・冥界脱出口 江戸なら、吉原見返り柳 ・白河の関目前の芦野の遊行柳 ・・・田一枚 植えて立ち去る 柳かな いずれにしても、シダレヤナギ(柳)である。他のヤナギ(楊)には全く無関心と言ってよいだろう。しかし、この木、とんでもなく多種なのである。余りに熱心な東北大の先生が全精力を傾けた結果と読めないこともないが、すぐ分化しがちな樹木のようだ。それもわかる。この木は雌雄が別で、雌花は落ちると掃除が面倒だから、植栽はもっぱら雄の木だからだ。従って、チャンスあればなんだろうが受粉。当然、雑種化がすぐに進む。ただ、ご存知のように挿し木でも増える。そうなると、一寸した変種が一本生まれた直後、暴風雨が一帯を襲って、生えていた土地が崩壊したりすれば、新たに生まれた雑種の林ができあがる可能性は高い。 図鑑の解説では分布状況はさっぱりわからないが、種別に地域を棲み分けて生活しているのでは。強引に場所で分類してみたがどれだけ当たっているかはさっぱりわからぬ。もちろん、これ以外の種もあるが、それを並べるだけの知恵が働かなかった。 シダレヤナギ:水路や街路沿い、あるいは公園といったところの植栽 マルバヤナギ/アカメヤナギ/フリソデヤナギ:低湿地の川池沼等の岸辺 ネコヤナギ/エノコロヤナギ/カワヤナギ:山間渓流や中流の流れが急な岩場とその周辺の河原 ヤマネコヤナギ:水分供給はあるが比較的乾燥しがちな崖地 シロヤナギ:河川の下流部の砂礫が積もっている場所 ヤマヤナギ:風が強い尾根や斜面の林の崩壊跡地 シバヤナギ:地下水が通っていそうな丘陵間近や里山の水場近辺 ヤブヤナギ/オノエヤナギ:川沿いの藪状の場所 以上、勝手な想像に近いが、素人が樹木を眺めたところで、シダレ(枝垂)、ネコ(猫)、アカメ(赤芽)、その他の4つに峻別するのが限度。細かなことを知ったところでたいした意味はない。 もっとも、水辺の護岸壁化が進んでいるし、土石流防止用のコンクリートの塊が次々と構築されている状態だから、こうした分類は早晩意味がなくなる。換言すれば、将来的には絶滅危惧種化する種だらけかも。 そうそう、忘れずに、環境性以外の観点で分類できる種も追加しておこう。 ウンリュウヤナギ:生花用栽培品(かなり人工的な枝ぶり) ジャリュウヤナギ/セッカヤナギ:華道観賞用(奇形) コリヤナギ:行李材料(朝鮮半島から入ってきた樹木。) ・・・行李は超高級品で残っていそうだ。樹木はどうなっていることやら。 (参照) 広栄社つまようじ資料室 (当サイト過去記載) 柳箸で想う(2009.1.7) 「日本の樹木」出鱈目解説−INDEX >>> HOME>>> (C) 2012 RandDManagement.com |