■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2012.9.16 ■■■

   メディアが産んだ洋モノ偶像木

アカシアという木の名前を知らない人はいないのではなかろうか。そして、なんとなくといった程度でしかないが、ロマンティックな印象もお持ちの筈。と言って、どういう木が説明してくれないかと言われると、多分、大いに窮するといったところ。

高年齢層だとイの一番に頭に思い浮かぶのは「アカシアの雨がやむとき」かな。西田佐知子1960年発表の大ヒット曲である。安保闘争の頃の世情を思い出して感傷に浸れるせいもあろう。

文学好きだとアカシアには定番がある。啄木が詠んだ札幌駅前通りの街路樹の歌である。
  アカシヤの なみきにポプラに 秋の風 註:なみき=街+[木偏に越]
    吹くがかなしと 日記に残れり  [一握の砂]
1907年に訪れた時の文章を読むと、その感慨がより鮮明に伝わってくるかも。・・・"札幌は寔に美しき北の都なり。初めて見たる我が喜びは何にか例へむ。アカシヤの並木を騒がせ、ポプラの葉を裏返して吹く風の冷たさ。札幌は秋風の国なり、木立の市なり。おほらかに静かにして人の香よりは樹の香こそ勝りたれ。大なる田舎町なり、しめやかなる恋の多くありさうなる郷なり、詩人の住むべき都会なり。" [秋風記]

とくれば、続いて"アカシアの 花の下で あの娘がそっと 瞼を拭いた"という石原裕次郎の声を思い出す人もおられよう。それとも、北原白秋の"この道はいつか來た道、ああ、さうだよ、あかしやの花が咲いてる"のフレーズかな。

こんなことをわざわざ調べた訳ではない。アカシアの街路樹は止めるべしとの運動が発生し、一躍全国的に有名になったから。「要注意外来生物」として槍玉にあがってしまったのである。

ご存知ない方もおられるかも知れないので、ご説明しておくと、「アカシア」と呼んでいるが、実は詐称。本当は「ニセアカシア」と呼ばれる「ハリエンジュ」。まあ、「ニセ」では確かに街路樹名としては不味かろう。(尚、エンジュは小生が歩くことが多い街路にも植わっている位で、定番モノのようだ。晩夏になると、豆の鞘が沢山ぶる下がっているのですぐにわかる。もちろん、花はいたって地味。ニセアカシアのような美麗で香る白色の花とは比較にならない。)
このニセアカシアだが、葉、果実、樹皮には毒性があるそうだ。しかし、そんなことなど気にとめる人がないほど、人気が出た樹木なのである。
それでおわかりだと思うが、「アカシア」の蜂蜜も、この「ニセアカシア」らしい。そもそも、「アカシア」は日本ではまず見かけないからである。一方、「ニセアカシア」はそこここに。
植樹の話を耳にしないから、養蜂業者が広げた可能性もありそう。そんなところが面白くない方々がいらっしゃるということだろうか。
国民的アイドルも今やバッシング中という訳である。

新宿御苑にはフランス式整形庭園に堂々としたプラタナスの街路が付属しているが、この樹木も明治期の輸入モノ。世界標準の街路樹をどうしても植えたかったのだと思われる。当然ながら立派な木々の話が報じられ、皆して見に行った訳だ。そして、大きな葉に感激したのかも。それを眺めて欲しくなった人続出。そんなことで、東京のプラタナスは、ここからの挿し木増殖と言われている。その後は下火になったように見えるが。キャスリーン・バトルが歌ったオンブラマイフ(気紛れなペルシャ王クセルクセスの木陰への愛の歌)の大ヒットはあったものの、人気再爆発とまでにはいかなかったようだ。今の状況としては、街路樹はハナミズキにして欲しいという人もいるようで、かつての街路樹へ期待感も相当違っているようだ。ソメイヨシノ贈呈に対する米国からの返礼品だからという訳ではなさそうなのだ。まあ、今や植木産業バブル臭いからなんともいえぬが。
迎賓館のユリノキも同じ頃の輸入だろう。手入れが行き届いているせいか美麗そのもの。従って、こちらも結構な人気。名前も和風で高雅な感じだから、引く手あまたに違いなかろう。
まあ、アイドルとはそんなものである。

ついでながら北大のポプラ並木も、ノスタルジーを呼び覚ます点ではまさに垂涎モノだった。(もちろん過去形。)1903年植栽のヨーロッパタイプらしいが、"Boys, be ambitious!" の地だから、観光的にはアメリカタイプとしておけばよかったようにと思うが、そんなことをするとニセアカシアと同じで詐称を嫌う人がでてくるか。そんなことを知ったのは新宿御苑で説明していた人がいたから。面倒なので確認していないから当てにはならぬが。尚、御苑のポプラは思ったとおりヨーロッパタイプ。イタリア系だとか。鬱蒼と茂る北欧の木かと思っていたが、改良はラテン系がことのほか熱心だったようだ。面白いと思ったのは、プラタナス同様に、ポプラが欲しいと言い出す方が結構いたらしいこと。当たり前だが、都内は猛暑にさらされる。そこで、暑さに耐えられる別な種を植えることになったのだとか。そこまで拘るほどの木でもなかろうと思ってしまうのは、アイドル無関心人間だけのようだ。はたして、この猛暑、都会のポプラ君は大丈夫だったのだろうか。
アイドルにされてしまうと生きていくのは大変である。

(記事)アカシアは象徴?有害?/JR札幌駅前の街路樹論争 東奥日報[共同通信社] 2010年12月17日


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