■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2012.9.18 ■■■

   元祖醗酵食品製造用の木

醗酵といえば、杉材を用いた木桶仕込みの日本酒がすぐに頭に浮かぶかも。
あるいは、味噌樽イメージか。
発酵食品は色々あるから、他にもあろうが、樹木の用途としては、香味付加のための添加を除けば、このような木製醗酵容器に限定されるのではなかろうか。

ところが、どっこい。
漬物の元祖として、「樹皮漬け」があったと言うのである。知る人ぞ知る奇妙な漬物。
確かに、万葉集には蟹の塩漬け「にらぎ」([草冠]+俎)が登場する。ニレの樹皮粉末と塩を混ぜた乳酸醗酵漬物だとか。さっぱり想像がつかぬが、言葉からして、「にらぎ」とは楡木だろうから、野菜漬けの定番も当時はニレ木タイプだったと思われる。

と言っても、消滅した訳である。その理由だが、どうも嫌われたからではなさそう。もし、そうなら、奇特な人達がどこかで密かにこの伝統を保っている筈だからだ。
なにせ、ニレ樹皮粉の代替品が強者すぎた。言うまでもないが、米の糠。こちら一色になるのは当たり前。

ただ、現代の科学からすれば、ニレの樹皮には、ポリフェノール成分、オニレシノールが含まれているから、それなりに意味があると見なすこともできるらしい。しかし、復活の試みは流石に行われていないようだ。まあ、酒樽なら是非挑戦して欲しいと思うが、これは漬物。それほどご大層な意義もなかろう。素人目には、樹皮が粉末になり易く、しかも夾雑物が少なく、フレーバーも強くないし、比較的雑菌繁殖が進みにくいといった点が気に入られたように映る。それに、どうせ、輸入技術だろう。米糠はその発想を生かした国産技術といったところでは。こちらは、秀逸。

ともあれ、ニレにそんな使い道があったとは。単なる街路樹の一種との印象しかなかったから、驚き。もっとも、そんな話を知ったところで印象が変わるものでもないが。

この木、プラタナス同様によく知られている割りに、人気アイドル的な扱いを受けていない。従って、イメージチェンジの可能性も薄そうなのだ。なんとなくだが、暗くて屈折した感情が込められていそう。楡でなく、洋風にエルムと呼んでも、それは全く変わらない。個人的な感覚という訳でもなさそうだから、例証をあげておこうか。・・・

団塊の世代から見れば、おそらく、"楡の木陰"イメージは舟木一夫の「高校三年生」そのもの。1963年の発表だそうだが、およそ感傷の塊のような曲。お陰で、小生はどうにも好きになれない。
一方、NHKの朝の連続ドラマ好きなら、多分、北杜夫「楡家の人々」か。時代に翻弄され家が没落されていくなかで、しっかりと生き抜いていく3世代てな、宣伝文句がつきそう。何故、「楡」という姓にするのかは、人それぞれ見方が違うだろうが、何時までもダラダラと燃え尽きない薪となりそうな木の割りには、一本の樹木としてはなかなか格好が良いということではないか。およそ時代を変えようとの生き様とは程遠い木といえそう。そうそう、楡家イメージを北杜夫母校青南小学校辺りの街路に求めるのも無理がありそう。「フューチャーセブン-->ボディ&ソウル-->ブルーノート-->根津美術館-->青南小」、「青山墓地中央-->秋山庄太郎写真芸術館-->青南小」、あるいは「表参道交差点-->プラダビル-->銕仙会能楽研修所-->青南小」のいずれのお散歩コースも、ニレの木的雰囲気とは言い難かろう。

まあ、感覚的にニレらしいのはやはりコレ。
  神社の鳥居が光をうけて
  楡の葉が小さく揺すれる
  夏の昼の青々した木陰は
  私の後悔を宥めてくれる
    (中原中也:"木陰"@「山羊の歌」1934年)

(参考) 楡の小百科 (楡のホームページ) by 楡山神社


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