■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2012.9.20 ■■■

   赤ちゃん縁起木

新生児は「赤ん坊」と呼ばれるが、これは、帝王切開を除き、新生児の皮膚が赤みを帯びているからとされる。出産時に胎盤の血液が押されて体内に流入するため多血気味になっている訳だ。
還暦のお祝品に、赤色を用いるのは、出典は不明だが、再び「赤ん坊」から出発する意味があるとされている。まあ、赤色には幸運を呼び込む力があると感じているだけの話ではないかと思うが。
それにしても、この手の縁起担ぎが大好きな社会である。万葉集の時代から連綿と受け継いできた体質と言えそう。

そうそう、言葉遊びもしないではいられないのも、同じく体質のようだ。還暦後の長寿のお祝いは、古希を除けば漢数字合わせゲームのようなもの。・・・喜寿(草書体:七十七)、仐寿(ハ十)、米寿(八十八)、卆寿(九十)、白寿(百−一)、茶寿(廿+八十八)、皇寿(百−一+一+十一)。今や、111歳から先のお祝いも考案する必要がありそうな雰囲気だが、どうなることやら。

樹木についても、これが適応されることになる。
葉が落ちず、赤い実が生るなら、まさに赤ちゃん縁起木そのもの。それに言葉遊びが付随するなら絶品樹木となる。
その代表は「千両」か。
黄金色の実が成る訳ではないのに、どうしてこんな名称にしたのかはよくわからないが。まさか千両箱材だった訳でもなかろうが。 まあ、千両役者と同じような意味で、千両樹木といった感じだろうか。なにせ、葉の深緑色と実の赤色のコントラストが素晴らしい。従って観賞用にもなるが、主用途は、あくまでも歳神様到来を祝って飾ること。赤色が幸運を呼ぶ訳である。
面白いのは、類似の赤い実の常緑低木に同じように命名している点。そこまで遊ばなくてもよさそうに思うが。・・・一両(蟻通し:アリドオシ)、十両(藪柑子:ヤブコウジ)、百両(唐橘:カラタチバナ)、万両(これはママ:マンリョウ)。
こうなると、一番好まれるのは万両かと思いきや、実が付く位置が今一歩なのか、やはり一番人気は千両のようだ。もっとも、それは盆栽の実モノのお値段から判断しただけの話だが。

しかし、赤くて堅そうな実が生る常緑低木で、縁起を担ぎたいなら、「難転(南天:ナンテン)」がピカ一とおっしゃる方が多いかも。長寿を願う南天箸もあることだし。(当たり前だが、こんな細い低木材で廉価に箸を作れる訳がない。一応、南天ということにしておこうという、お遊び的命名。これも又愉しといったところ。)そうそう、厠で倒れないようにということか、手洗い場には南天という庭木設定ルールがあったのを思い出す。今は適応不可だが、どうなっていることやら。トイレ内装飾として南天盆栽を採用するお宅もあるのだろうか。

まあ、庭木になると、南天より、青木(アオキ)か。日陰でもよく育つし、耐寒性があり、狭い場所に緑を配置したい場合には便利ということだろう。縁起担ぎ好きなら、環境を問わず生き抜く青木の力にあやかりたしとなのは自然でもあるし。ただ、赤い実は球形ではないから、赤ちゃん樹木としての正統感を欠く感じはするのだが。
問題は、黒枯れが目立つ点。これがあるので、小生はどうしても好きになれぬ。それに、明治神宮や白金自然教育園のように、手を入れない林の低木は必ずアオキだらけになるのもえらく気に入らぬ。もっとも、そのお蔭で、大都会にもかかわらず、アオキの実を好物にしている野鳥が矢鱈と沢山棲んでいるそうだが。そんなことは、決して喜ばしいことではないと思うが。

青木よりもっとつまらぬのが、そこらじゅうの生垣に使われている柾(正木:マサキ)。広いお庭にはよく似合うが、狭い都会で生やされるのは、実に面白くない。それに、赤い実とはいえ、割れるから縁起でもない樹木だ。まあ、生垣では実は滅多に見かけない訳だが。
マサキを選びたくなる理由は、おそらく葉の密度が濃いからだろう。そして名前が、いかにも定番品の雰囲気をかもし出している点も大きそう。小生は、本当の名前は正木ではなく、真青木だと踏んでいるのだが、いかがなものか。

縁起担ぎという点から、赤い実が生っても落葉樹だと、たいした名前もつけてくれないことになるが、例外的な樹木もある。赤い実が美しいことで定評がある七竈(ナナカマド)。山小屋の主人が絶賛する秋の風景にはたいてい登場してくる名前だ。コレ、竈で7回入れても燃え尽きないという意味だとか。どこまで本当かはわからぬが、火難から守ってくれる大切な樹木とされているとか。植林しているのかを聞き忘れたが。

一方、常緑樹で房状に多くの赤い実をつけていても、外来樹木だと縁起担ぎの対象から外されるようだ。ピラカンサは人気があるが、ファッショナブルというだけで、縁起担ぎや言葉遊びの世界には入れてもらえないようである。

(参考) 樹木図鑑 赤い実の木 by 樹げむ舎


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