■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2012.9.26 ■■■

   拘りの命名だらけの紅葉木

今回も、可笑しな日本語のタイトル。ご勘弁の程。

紅葉樹木といえば、小生が好きなのは、「七竈」だが、冷涼な地でないと植えられていないようで、紅葉狩りとしてはやはりカエデしかなかろう。
この「もみじ」だが、本来は樹木の名前ではなく、葉の色が変わることを指す言葉だという。万葉集では、黄葉が「もみじ」。1つだけ例外はあるが。
 妹がりと 馬鞍置きて 射駒山
  うち越えくれば 紅葉散りつつ 
[作者不詳 万葉集#2201]
これが、藤原定家の頃になると、紅葉一色となり、モミジ=カエデ化してしまう。これは、緑豊かな生駒山が全山紅葉したことに感激した訳ではなく、おそらく秋の高雄参りでその美しさに感動したからだと思う。
空海も最澄も、この高雄の紅葉の美しさは中国には無いのだゾと、揃って語ったからでもあろう。
従って、高雄近辺の樹木名はタカオモミジ。
その類似の樹木の一般名はモミジである。

しかし、どこまでを類似とするかということになるが、それは、当然ながら、空海作とされる「色は匂へど(イロハニホヘト)」が実現しているかどうかで決まる。要するに、7翼葉になっているかだ。流石に、そこまでいかなくても、最低5翼葉で、切り込みは深く、葉肉を感じさせないほど薄く、縁辺はギザギザで軟いというのは必須。
従って、基本種の名前はイロハモミジである。
ただ、深い山の樹木ではなく、もっぱら里山や庭に植えている種を愛でることになるから、葉が小さく、巨大樹にならない手の種類を指すことにしたに違いない。

そうなると、イロハモミジに似てはいるが、当てはまりそうにないものが設定される。
一つは葉が大きいもの。当たり前だが、その名はオオモミジ。ただの大柄というだけでなく、細かなところが雑なので、一緒にしたくない訳である。縁辺の鋸歯が荒っぽすぎるのだ。まあ、よく細かなところを見ているもの。
そして山に多い大きな葉のタイプも別にした。なんとなく柄が長いところが今一歩かなといったところ。もちろん名前はヤマモミジ。
もっと高山になると、細かなところでさらに違いが出るのか知らぬが、名前はミネモミジとなる。

いずれも、樹木の名前はモミジであり、カエデではない。
よく知られるように、カエデとは「蛙手」から来た名称。ただ、指が7本の蛙はいないし、指の間には薄っぺらい膜があり深い裂け目など無い。
つまり、上記の種とは若干異なる葉形の樹木がカエデなのである。
 わが屋戸に 黄変つかへるで(鶏冠木) 見るごとに
  妹を懸けつつ 恋ひぬはなし 
[大伴田村大娘 万葉集#1623]
オヤオヤ、蛙手でなく、トサカではないのかとなりかねない歌だが、形にたいした違いはない。

その蛙手葉はどこで見れるかといえば、誰でもが知っている東福寺。「京都一の紅葉」とか、「通天閣から眺めるカエデの海の絶景」といったウリ言葉で余りにも有名だが、ここの樹木は上記のモミジ系ではないのだ。

それでは、東福寺の紅葉木はどう名付けられたかだが、トウカエデなのである。これでおわかりだと思うが、中国から渡来した樹木なのである。密教の地、高雄のモミジ葉と似てはいるが、禅宗の地の樹木は違う訳で、当然ながら漢字は「唐楓」。ところが、ここでの紅葉が主流になってしまったから、モミジもカエデも同じ意味となってしまったのである。
本来なら、モミジ系を「槭」とし、カエデを「楓」主すればよかったのだが、カエデが紅葉の主流になってきたから、それなら、同じ「楓」でよかろうという日本的な解決で済まされた訳だ。

こんな風に書くと、「唐楓」は東福寺限定との間違ったイメージを与えるかも知れないが、街路樹や公園でもそれなりに見かける種である。多分、都会の環境に耐えられる力がある木だ。葉の印象から言えば、モミジの一族という感じだし、時代の波にのった種と見てよさそう。

これはモミジではなかろうというカエデと言えば、矢張り、カナダ国旗の図柄になっているシュガー・メープルでは。この形状では、イロハモミジだろうが、トウカエデだろうが、似ているとはとても言えまい。
しかし、メープル葉に似た形状の葉を持つ樹木もあることはある。カジカエデだ。巨大であるせいもあるが、植物学愛好者を除けば、カエデの仲間と見なしたくないような形状の葉。そこで、カジの木的な葉で、一寸違うけど、一応はカエデにしておくかナということ。

もう一つ名前を良く聞くカエデがあった。イタヤカエデである。板屋根風ということだが、黄葉だし、ギザギザも無く、全体の形だけはよくよく見れば一応カエデに近いぜ、という感じ。名前としては、そんなところが妥当かナという気にさせられる。

おっと、ここで終わってしまうと、重要な楓を忘れるところだった。
フウがあるのだ。いかにも中国名そのまま。ところが、漢字表記はカエデと一緒の「楓」。
混乱しているように見えるが、逆である。
秀逸。
3翼葉でのっぺりした感じ。およそカエデ的な印象を欠くからだ。別名がタイワンフウだから、台湾のような暖地に生える木だろうが、日本でもよく育つ。なにせ、街路樹としてだけではなく、散策用小道、公園まで、実によく植えられているのである。一本の樹木が堂々としており、紅葉すると確かに見事。逆に言えば、和風の繊細さには欠ける訳。
こんなこともあり、カエデとは言いたくない気分はよくわかる。そうなると、漢字名の「楓」(楓香樹)を生かし、呼び名を非日本語ならどうだとなったのだろう。

そう考えると、フウの類縁樹木、モミジバフウ(紅葉葉楓)の命名にも納得感が生まれる。こちらはフウと違って、5翼以上の葉だから、一寸見にはカエデ。別名、アメリカフウ。北米サウス辺りに生えている訳だ。あちらでは、"American Sweetgum"(red gum)と呼ばれており、メープルの類の樹木でなくても、メープルシロップ的な木といった認識があるようだ。

もっと付け加えると、ハウチワフウもある。葉団扇とはよく言ったもの。大きいし、それこそ、八手を通り越して「散りぬるを」まで数えることができそうなほど切れ目が多いのだ。


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