■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2012.10.21 ■■■

   分類が腑に落ちぬ木

「松竹梅」は植物3分類の代表者だと聞かされた覚えがある。今でも、それは定番話ではなかろうか。
 「松」・・・裸子植物
 「竹」・・・被子植物単子葉類
 「梅」・・・被子植物双子葉類
場合によっては、さらにもう一つ加えれば完璧な分類なんですが、おわかりでしょうか、との説明が加わる。これらすべては種子ができる顕花植物なので、種子無しの代表も並べたくなるのです、とおっしゃる訳。
 「ウラジロ」・・・隠花植物

聴衆は、古代人の知恵侮れず、と感じ入る。そこを見計らって、講演者はおもむろに、実はこうした分類は植物学の成果で、古代人がわかっていた訳ではないことをあかす。
3樹木はこの観点で選ばれたのではなく、宋の文人画題、「歳寒三友」を取り入れただけなのですと〆る。もちろん、論語から採った用語との解説付き。
 「松」・・・寒中にも頑として、色褪せず
 「竹」・・・寒風に屈することなく耐え、色褪せず
 「梅」・・・寒さ明けに先駆けて花開く

せっかく植物学入門につながりそうな話をしておきながら、わざわざ突き放すことになるから、講演目的からすれば不適だと思うが、嬉々として語っているからご本人は逆に考えていそう。

当たり前だが、聞き手は、「松竹梅」とは一体なんなのだろうと疑問が湧いてくるから、頭のなかではそれで一杯になり、話など上の空で考え始めてしまう。「慶事・吉祥」三品とは全く異なる説明がなされるからだ。実態は、こんなところかナなどと想ってみたりするもの。
 「松」・・・不老長寿
 「竹」・・・成長・多産・開運
 「梅」・・・菅原道真公の威徳
ともあれ、3品そのものを取り入れてはいるが、180度異なる解釈で用いているのだ。摩訶不思議だが、講師側には、そんなことへの関心はほとんど無いのが普通。

ウエブをチラっと覗くと、松竹梅の「慶事・吉祥」は五行の和式展開と見なす方もおられるようだ。そうだとすると、こう当て嵌めればよいのかナ。当たらずしも遠からずでは。
 青龍・・・青「松」(日の出方向)
 朱雀・・・丹頂鶴
 黄龍・・・黄金「竹」(内部色)
 白虎・・・白「梅」(日の入方向)
 玄武・・・黒亀

ちなみに、松竹梅が各分類での「代表的」地位とされるのは、どういう理由か、講師に尋ねると面白い。
もちろん、まともな対応は期待薄。分類ルールを楽に覚えて使える手法を教えるために来ていることが多いからである。臍曲がりには、そんなことを暗記して、どこが面白いのかさっぱりわからぬが。
まあ、それが好事家というものか。学者さんでないことを祈ろう。
たまに、ここだけの話ですが、植物学的分類など屁の河童と言い放つ御仁もおられ、この場合は実用的な話になる。お洒落な通俗名を教えてくれ、樹木植栽の楽しさを話始め、弾みがついて止まらなくなったりして。当然、そんな話に引き込まれ、アッという間に時間がたってしまう。たいていは、園芸家の方。

せっかくだから、素人なりに、それぞれの代表を考えてみようか。
単子葉の樹木だが、タケ以外は南洋のヤシ位しか思いつかない。そういう点では、タケは当然の代表だ。
双子葉の樹木は選定困難。五万とあるからだ。それに、日本なら、「梅」よりは「桜」では。それでは冬に合わぬと言うなら、冬に花が咲く常緑樹の寒「椿」こそ代表に相応しい。それに園芸品種のトップだし。難点は、首がもげて縁起悪し。譲り葉的な常緑樹も良いかも。その代表なら、「楠」が自然だ。あるいは、霊の降臨シーンという手もあるから、「榊」も悪くない。「松竹榊」とくれば、凄すぎる。「依り代+降臨路のお清め+神への供樹」のセットを越える3品はなかろう。
裸子植物だと、南洋樹(ソテツ)や、冷涼高地の落葉針状葉樹(カラマツ)は代表としてはまずかろうが、いかにも特殊な落葉扇状葉樹(イチョウ)、落ち着きを感じさせる常緑広葉樹(ナギ)、もともとは大木が多かったと思われる常緑細葉樹(コウヤマキ/イヌマキ、イチイ/カヤ)、ポピュラーな常緑針状葉樹(マツ、スギ、ヒノキ/サワラ)、と選択肢は結構幅が広い。個人的には、コウヤマキがよさげに思うが、どんなものか。

馬鹿馬鹿しい話が続いたので呆れられたかナ。
縁起ものの話に、植物学の分類など持ち込んでどうすると言われれば、ソリャその通りだが、この話にもう少し拘りたいのでご勘弁の程。

実は、上記は長い前段で、言いたかったのは次のこと。−−−「科学的」観察の視点で分類すれば、以下のように考えるのが自然では。少なくとも、イチョウやナギを針葉樹の仲間と呼ぶのだけは止めて欲しいもの。
 「松」・・・針状常緑葉堅種樹木の代表
 「竹」・・・非尋常幹(有節)樹木の代表
 「梅」・・・楕円状落葉果実樹木の代表

何故、こんなつまらぬことを考えるかと言えば、「竹」と「笹」の区別の仕方が理解できないからである。非尋常樹木の分類の仕方がどうもしっくりこないのだ。
常識的には、枝を棹状の有節幹が支える樹木的な植物と、こうした構造を欠く草本的な植物の違い。ところが、植物学ではそう考えてはいけないそうだ。(一般樹木の「幹」に相当する箇所が、有節で様相が異なるので、棹[さお]状と勝手に書いている。正式には「稈[カン]」だそうである。藁のような草本用言葉にも感じるがどんな概念なのだろうか。)
その結果、「タケ」の分類に「ササ」名称の植物が入っているし、その逆も。俗称「篠竹」もササ。
 オカメザサ・・・「タケ」
 ヤダケ、スズダケ、メダケ・・・「ササ」
ただ、両者は明瞭に峻別できる。筍が成長すると皮が剥げ落ちるかどうか見ればよいのである。まあ、どう決めようと学者の勝手だが、その手の判別方法にした理由位は解説してもらいたいもの。一体「皮」にどういう意味があるのか、素人には、さっぱりわからないのだから。
弓道、華道、茶道の道具類や楽器はそれこそしっかりした「稈[カン]」あってこそのもの。だからこそ竹製品であり、もっぱらう葉を使う笹製品とは違うというのが普通の見方だろう。だいたい、ササという名称自体、サラサラ感的擬音臭いから、葉っぱの植物と見なしたに違いあるまい。こうした分類ではどうして不味いのか、無教養人にはさっぱり理解できぬ。

と言っても、もともと名称には混乱があるのは間違いなさそう。
竹の子こと筍を見ればわかる。驚異的な成長で、猛々しいからタケと呼ぶと言われる位で、まさに竹の象徴たるもの。普通は、食用はモウソウチクを指すが、たまにハチクも。古事記の頃はそちらか。ところが、それ以外にも美味しい竹の子がある。それが、上記のオカメザサ。ほとんど出回っていないが、これこそ絶品と語る人がいる。他人を羨ましがらせる体質の方かも知れぬが。この場合、まさか、笹の子と呼ぶ訳にもいくまい。そういう意味では確かにササではなく、タケである。
ただ、正真正銘の笹の子も存在している。チシマザサの筍。細くて美味しく、姫筍として売られている。ただ、これをチシマザサの筍と呼ぶのは学者しかいまい。普通は、ネマガリダケ(根曲竹)の竹の子。つまり、一般にはササではなく、タケと見なされている訳である。

まあ、この辺りまでなら、瑣末な話。
圧巻は、タケはイネ科に属すという見方。ソリャ確かに、似ているところは多い。しかし、草本の稲と、樹木の竹を一緒に考えるとなると、とてもついていけない。タケは草本と見なすべしと主張しているように聞こえるからである。
もちろん、草と木は全く別のものと考えている訳ではない。梅や桜がバラ科とされてもなんの驚きも無い。多種多様な樹木を含んでいるからでもあるが、薔薇は、それなりの太さと強さの茎になる上、蔓性だから、樹木への発展系はあってしかるべきと感じさせるからだ。
同じように、トクサ、ササ、タケなら、一緒にしてもほとんど違和感はなく、納得がいく。でも、稲と竹となると、余りに違いが大きすぎる。竹は、撓うと言っても、強靭な高木だらけだし、その花や種など見かけたこともないからだ。有節植物として、他の植物と違う括りにすべきということなら、ソリャそうかもという気になるが。


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