■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2012.11.2 ■■■

   政治的に褒めねばならぬ木

年輪がある幹があるにもかかわらず、草冠の漢字を用いるのが「藤」。
中国名の紫藤に合わせただけなのだろうが、国字を作成してもよかった気がする。中国は直立単独木で、日本の種のように、棚の蔓から花が一面に垂れるタイプではないからだ。もっとも、日本にも2種あり、フジとして見慣れているのは野田藤系統。見栄えが全く違うのが山藤だが、高度ではなく、近畿以南と以北で棲み分けているとか。面白いのは、片方は右巻きで、他方は左巻き。そんな植物は滅多になかろう。

日本のフジは、その花の美しさでどこでも大人気らしい。そんなこともあって、色絵藤花茶壺(仁清作 MOA美術館所蔵)に感じ入る人が少なくないなどというと、素人は黙ってろと言われてしまうかな。
ともあれ、万葉集にも沢山収載されている。しかし、それらの歌をざっと眺めると、純粋に、花の美しさにゾッコンという訳ではなさそう。典型は、藤原氏の祖先神を祀っている春日の地の歌。
 春日野の 藤は散りにて 何をかも
 み狩の人の 折りてかざさむ
   
[作者不詳 万葉集#1974]

そんなことを考えていたら、たまたまだが、古事記の話を思い出させてくれる記事に出会った。但馬の「出石神話」の解説。他の話に比べると注目度は低いが、意味深。
だが、内容は単純きわまりない。八十神からの数多くの求婚にさっぱり応じようとしなかったイズシオトメ[伊豆志袁登売神]が春山霞壮夫[カスミオトコ]と結婚しただけのこと。
どうして結婚できたかといえば、カスミオトコが、母親が一晩で織った藤皮繊維の衣・褌・襪・沓を身にまとい、藤蔓で作った弓矢を持って求婚に行ったから。姫は花が咲いた弓が気になってしまい、それを切欠に二人は結ばれたのである。
それには前段があって、兄の秋山下氷壮夫[シビタオトコ]は求婚に失敗しており、弟と成就の賭けをしていた。しかし、兄はその約束を無視。弟は母親に訴えたので、兄は呪術をかけられ懲らしめられる。そして反省という筋書き。
問題は、この読み方だ。まあ、日本初の花物語と見ることもできる。(これぞ、賭け事の始まりと考えたい人もいるかナ。)

多分、常識的な見方ができあがっている。・・・霞たなびく春の山での、フジの花咲く姿は、枯れ行く秋の情景と比べるべくもなく、生命力の観点で断然勝っていると、語っていると考える訳。確かに、フジの冬枯れ状態は半端ではない。ほとんど干からびてしまった状態にしか見えない。ところが、それが春になると俄然活発になり、華やかな花まで咲かす。しかも、老木ほど華やか。若木は成長するのに精一杯なのか、花は今一歩とくる。従って、その生命力に感嘆する気分は共感できるものがある。もっとも、小生は亀戸天神の藤花より船橋屋の葛餅の手だが。
実態としては、「咲きほこる藤の花は霊力の象徴であり、ミタマノフユ=ミタマフリ(霊魂増殖の呪術)の顕現した光景」だそうな。
ついでながら、このイズシ族とは、但馬北東部に居住した古代的な呪儀をつかさどる渡来系氏族だとか。

素人には、なんとも判断のしようがないが、古代の風習はなんとなくわかる。
 ・跡継ぎは長幼ではなく、実力で決まる。
 ・姫と結婚できると大国を治めることができる。
 ・結婚するには、ご神託が必要である。
オット、話が脱線してしまった。

この藤衣だが、現代でも織物として残っているのには驚いた。
加畑兼四郎氏が30年以上織り続けている「丹後藤布」。弁財は、草履などにしているという。
近代になっては単に繊維が強いといった理由から醤油の搾り布、蒸し布、畳の縁にしか使われなくなったそうだ。
ちなみに、藤布が登場する歌とは、塩焼作業のシーン。
 寄物陳思
 大君の 塩焼く海人の 藤衣
 なれはすれども いやめづらしも
   
[作者不詳 万葉集#2971]
 須磨の海人の 塩焼衣の 藤服
 間遠にし有れば 未だ着なれず
   
[大網公人主 万葉集#413]
カスミオトコは華やかさより、質実を重んじる精神を示すために藤布を着用して求婚に出向いたということか。

思うに、フジの繊維だが、石器時代の用途は上記のようなものではなく、もっぱら石器を棒に取り付ける紐だったのでは。そうだとすれば、呪術的要素が含まれていておかしくあるまい。
しかし、万葉集の時代になると、そんなことより、藤原氏の花という感覚が表面に出てきていそう。(中臣鎌足の出生地である藤原之第にちなんだ姓)
それがよくわかるのが、伊勢物語101段。宴会場に、滅多に見かけないような見事な藤の花が活けてあり、それを巡って無理矢理歌を詠まされたお話。
 咲く花の したにかくるる 人を多み
 ありしにまさる 藤のかげかも
   
[在原業平@上司の藤原良近を主客とした在原行平主催の宴会]
イヤー、危ない危ない。業平って面白いネ。
フジって政治的な花だった訳か。

(朝日新聞兵庫記事) 但馬歴史文化研究所 石原由美子
  古事記1300年(3)水を操ったイズシ族 2012年10月30日
  古事記1300年(2)出石神話をご存じ? 2012年10月23日
(ウエブ情報) 加畑兼四郎 職種:藤布 古代織物町三十三丁目一番地 職人の住む町



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