■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2012.12.14 ■■■

   櫛の木

櫛と言えば、材は黄楊というのが通り相場。従って、本つげ伝統工芸品は人気が高い。しかし、今や、100円ショップに「本ツゲ」なる商品が登場している。もちろん外材の「シャムツゲ」。
それ以上に人気なのは、赤味を帯びた「桃の木」だという。
ムムー。これは凄い。
古代から櫛材はは様々なものがあり、それぞれの材毎に、特定の意味付けがなされていた筈。そういう観点では、モモは邪を払うということか。
もっとも、現代の購入者は若者が多いようで、油を含ませて使うのに重宝しているらしい。

ちょっと、考えてみた。

 ○ツバキ材漆塗り
福井県鳥浜貝塚遺跡出土。とてつもない古代。縦状の飾り挿し櫛。
 ○(象牙)・・・樹木ではないが。
確か、正倉院御物にあったような。勘違いかも。
 ○シタン、コクタン
貴重品であり、硬い木の定番だが、使おうという気にはならなかったのだろうか。
 ○竹
古事記にはいくつかの話で櫛が登場する。「ユツ-ツマ」という名称がついているから、「ユツの木」という可能性もある。ただ、投げたら筍になったとされる櫛はどう考えても竹製以外にあるまい。現代では、串の木だが。
 ○ツゲ
万葉集はツゲ一色。[#1777]
  君なくは なぞ身装はむ 櫛笥なる
  黄楊の小櫛も 取らむとも思はず
 ○イスノキ
平城宮跡からの出土品の圧倒的多数。ツゲは少ない。宮中使用の櫛であり、「檮」と記載するらしい。
 ○ウメ、モモ、リンゴ
必ずしも赤味材になる訳ではないが、そんな材も喜ばれたのでは。飾り櫛ではなく、梳かすのにはお洒落とか称され。
 ○サクラ
塗り物だと、なんでもよいとなりがちだが、最適材はサクラか。
 ○ミネバリ
小生にとっては、初耳の材である。木曽の名産「お六櫛」に使われるらしい。実用品とされているから、江戸期に椿の代替材として勃興したのだろうか。
 ○マユミ
推測だが、江戸の武家は三宅島/御蔵島産のツゲを嫌ったに違いない。薩摩産がそうそう出回るとも思えないから、武士なら真弓となるのではなかろうか。いい加減な推測。
 ○イヌツゲ、ヒイラギ
大衆文化華やかな江戸市中で、そうそう高価なツゲが町人に使える訳がなかろう。代替としては、こんなところではないか。
 ○モッコク
江戸期には庭木にされたようだが、結構、伐採されている。細工モノに使われたと睨んでいるのだが。
 ○シャムツゲ
グローバル経済になれば、当然ながら外材。ツゲは相当前から供給不足だから、外材商品がずっと主流だった可能性の方が高かろう。

こうして眺めてみると、光っているのは、やはりイスノキ。なんといっても漢字が輝いている。
この木、植物公園には必ずあり名前だけは知っているのだが、イメージがなかなか浮かばない。椿を真っ直ぐに高木にしたような感じしかしない。印象が残らないのである。
それは、多分、滅多にイスノキを見ない現代人だからだろう。

どうも、この木は照葉樹林には当たり前のように生えているらしい。スダジイ、コジイ、アカガシ、アラカシ、ツゲといった林に同居しており、結構、多数派を形成しているようだ。おそらく、材木としては、シイと一緒に切り出されて来たのだろう。
つまり、基本植生としては、本州西南部・四国・九州・琉球といった黒潮圏。伊豆半島には、下田市吉佐美八幡神社に推定樹齡六百五十年[天然記念物]が残っていることだし、イスノキ櫛は南島文化を継承していると見てよさそう。
「イスノキ」という名称も、琉球語から来ていると見るのが妥当だろう。(沖縄名はユシギ。)

(ウエブリソーシスから)
阿部万里江, 清水久美子:「櫛にみるデザインと漆の文化」同志社女子大学生活科学 Vol.45, 1-11(2011)
県内最後の櫛職人「はままつぐし」の心と技 by くれりんさん 2011年09月26日 いいじゃん掛川/掛川市
木曾のお六櫛 KisomuraNet.



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