■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2013.2.17■■■

   本州でも育てている南洋の木

遠き南の島の木と言えば椰子というのは誰もが認めるところだろうが、草本の方が気分がでるのでは。そう、バナナである。草だが、バナナの木と呼んだりするのは、大きい植物だからだろう。
と言っても、日本で見られるのは、植物園の温室は別とすれば、沖縄の「島バナナ」である。皮が極薄で極甘。観光地価格なのかよくわからぬが、お店にでているのはやけに高価だが、それでもよく売れるようだ。どちらさんのお庭にも生えている木だし、フィリピンバナナのような低コストで商売できる筈もないから、致し方ないか。
もっとも、家庭に植わっているのは、実はバナナではなく、バナナモドキという可能性もある。本州だと、江戸期から「擬」は人気がある。そう、「芭蕉」である。こちらは、もっぱら布用である。現代の利用先はよくわからぬが、拙宅では、泡盛用カラカラと猪口の敷き布に使っている。

芭蕉が南洋イメージの草本とすれば、木本としては何かと言われれば、答えは簡単。椰子系ではあるが、ヤシとは言いにくい手の樹木。ヤシよりポピュラーである。

○シュロ[棕櫚/棕梠}
亜熱帯性にもかかわらず、本州の至るところに植えられている。
もともとは、幹に密生する毛が欲しくて植えられたとの話だが、どうなんだろうか。確かに、耐水性をかわれた縄や箒の類は時々見かけるし、ウレタンフォームが一般化する以前の椅子のクッション材にはたいてい毛が入っている。
だが、家庭や学校でよく見かける樹木なのである。商用とはとうてい思えない。しかも、雑木林のなかに必ずといってよいほど見つかる。ポツポツと生えているし、その周囲はたいてい高木で、背を伸ばすのは難しそうな環境。にもかかわらず、しっかりと根付いており、たいしたもの。鳥に種を運んでもらって進出したのは明らか。
この手のシュロは「野良棕櫚」と呼ばれるそうな。

どう考えても、その辺の家の庭木として育てられていた木々と見るべき樹木である。実用性ではなく、愛でるため。それは、平安京の頃からの伝統かも。
  すがたなけれど、椶櫚の木、からめきて、
   わろき家のものとは見えず。
      [枕草子 四七段]
ただ、江戸期になると、武士は葉柄が下がるのが面白くなかったようで、大名庭園に植えられたのは葉が上を向く「唐棕櫚」。当然のことながら、従来のシュロは「和棕櫚」に。ご丁寧にも、雑種も作出されたようで、「合い棕櫚」と呼ぶそうだ。

ついでながら、南洋イメージの樹木として、追加しておかねばと思われる木がある。こちらは、シュロと違って、国内ではポピュラーとは言い難いが、平安期はそうではなかったようだ。

○ビンロウ[檳榔]
檳榔子を葉で包み、石灰と一緒に噛む姿を見かけると、これぞ熱帯という気になる。台湾だと、なにか猥雑な感じもあり、手が出しにくい。そんなこともあって、日本に入っていないのだろうと見ていたが、檳榔という樹木は存在していたようだ。ビンロウと同じなのだろうか。
  よき家の中門あけて、檳榔毛の車の白きよげなるに、
   蘇枋の下簾、にほひいときよらかにて、
    榻にうち掛けたるこそ、めでたけれ。
      [枕草子 六三段]
  檳榔毛は、のどかにやりたる。
      [枕草子 二九段]
牛車の屋根装飾だとすると、南国趣味なのだろうか。白色なのだから、葉をほぐして脱色したのだろうが、そこまでして使う理由が定かではない。軽くて耐水性があり、太陽光線を反射させるといった機能性で用いられてとも思えないし。それにしても、熱帯性の椰子を一体どこで育てていたのだろう。このころは、京都は冬も矢鱈に暖かかったとというだけの話かも知れぬが。


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