■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2013.12.19 ■■■

     軽大郎女詠みし木

ニワトコは庭木に使われているので、てっきり「庭常」と書くのかと思いきや、普通は接骨木の方が多いらしい。
もちろん、骨が繋がる薬などあろう筈がないから、湿布用ということ。どこまで広く使われていたのかわからないが、わざわざ調べる気にもならないので、まあよしとしよう。
その一方で、若芽が食用になると書いてあったりする。湿布薬になるようなものだと、若芽にも生理活性物質が入っていて危険ではないかという気もしてくるがどうなんだろう。
まあ、試すなら、熟した果実を用いた薬草酒程度に抑えておくのが無難な感じがするが。

実は、そう思うのは、三内丸山遺跡の低地から出土した大量の植物種子のなかにニワトコが含まれており、しかも、量が最も多かったと聞くから。
しかし、どうも果実自体は食用に不向きらしい。そうなると果実酒しか用途がなかろうとなる訳だ。
もちろん、現代の果実酒のように、ホワイトリカーに実を漬けるという訳にはいかないから、ニワトコを醗酵させることになる。甘味が無さそうなのに、本当に上手く酒ができるものかナと一抹の疑問を抱くが、さりとて他の手も考えられない訳で。

もっとも、セイヨウアカニワトコ、セイヨウニワトコの赤や黒の実は酒やジャムにするそうだ。エルダーフラワー・リキュールを見かけたこともあるが、欧州ではごく普通にエルダーフラワー・コーディアル/シロップが作られているようだ。
まあ、これが美味しいものなら、遠の昔に輸入されているだろうから、日本的味覚とは合わないのだろう。

セイヨウニワトコが、日本のニワトコとどの程度の違いがあるのかはわからないが、縄文期は欧州同様の人気果実だったことが予想される。
しかし、今からそれを復活させようとの奇特な方は出ないのではなかろうか。

とはいえ、ニワトコには特別な情緒感があることは間違いないようだ。
木梨軽太子と実妹・軽大郎女の許されざる恋で詠まれる歌に出てくる「山釿」とはニワトコのことだというのだから。
  故、その軽太子をば、伊予の湯に流ちまつりき。
  また流たえたまはむとせし時に
  歌ひたまはく

    天飛ぶ 鳥も使ひぞ 鶴が音の
    聞えむ時は 我が名問はさね

  とうたひたまひき。
   U
  故、後亦恋ひ慕ひ堪へずて、追ひ往きし時、
  歌曰ひたまひしく、

    君が往き 日長くなりぬ 山釿の
    迎へを行かむ 待つには待たじ

  此に山多豆と云ふは、是れ今の造木なり。
音韻的に「みやつこぎ」が「ニワトコ」に変化したというのは苦しい感じもするが、間違いないらしい。

浅薄な知識しか持ち合わせないので、どうしてニワトコが登場するのかはよくわからないが、鶴と多豆の対応と、恋人を迎える情景に合致する樹木イメージだったということか。葉が互生だし、命の息吹でも感じさせたのだろうか。残念ながら、想像がつかぬ。

(source)
岡田康博: 縄文遊々学 第8回 「お酒を飲んだ?縄文人」2008年12月26日
軽(かる)之神社・軽太子の塚 松山市立子規記念博物館


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