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■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2014.6.5 ■■■

南伝花香木

皇居東御苑に「桜の島」がある。30本ほどが植わっているのだが、そこに、毛色の違う、白色の花を咲かせる樹木が植わっている。解説板のすぐそばなのでえらく目立つ。もちろん桜の開花時期のかなり前の頃である。河津桜といい勝負という感じで。
この木、「おがたまのき」と呼ばれる。ついつい鼻を花弁にあててしまうが、ほのかなバナナの香りがする。

ウエブ検索すると、どれもこれも「招霊」の木との説明。そのため、そういうものと思っていたが、南洋的な甘さを感じ取った瞬間、その話に疑問がフツフツと湧き上がってきた。

と言うのは、常陸宮正仁親王殿下のお印の木とされているので、正式な表現だと思うが、それは「黄心樹」とされているからでもある。
極く自然に考えれば、実がついた木を降臨の場のお飾りにしたということで、「小賀玉」となろう。天の岩戸のお話を重視するあまり、「拝み玉」としたり、「招霊」という当て字が流行った結果と考えるべきだと思う。

学名から漢語を調べてみると、「台湾含笑」と呼ばれている。南島経路で古くに日本列島にやってきた樹木かも。
そこで、「含笑」の同類を眺めてみると、「含笑(花)/香蕉花/含笑梅/"Banana shrub"」と「雲南含笑」がある。当然ながら、これらもオガタマ類だから、日本では前者は「唐種オガタマノキ」で、後者は「雲南オガタマノキ」となる。

「含笑」とは、なかなかお洒落な名称をつけたものだ。以下のような漢詩で、古くから知られているようだ。
海南島に左遷されても詩作を続けたことも、この詩が人気を博した理由のひとつらしいが。
 晩年詩筆尤精、在海南篇詠尤多。

  「山居」 丁謂(966-1037)
 口清香徹海濱、四時芬馥四時春。
 山多緑桂怜同气、谷有幽蘭譲后塵。
 草解忘憂憂底事、花能含笑笑何人。
 争如彼美欽天壙、長荐芳香奉百神。


ただ、これは宋の時代のこと。日本の天の岩戸の時代ははるかな昔である。
しかし、特別な効果がある海南島の花木であると見なされていると考えると、この木の意味が見えてくる。

同類の樹木を眺めるとよいのである。

"Yellow jade orchid tree"と呼ばれる、インドから東南アジアに生えている木がある。コレ、植物学的にはオガタマノキの類縁。解説を見と、よく似ている木である。
その名称は以下の如き。
  cempaka(マレー語)
  Chenpakam(タミール語)
  Campaka(サンスクリット語)
大元は梵語と見てよいだろう。当然のこととして、漢語や英語はこの音訳になる。
  Golden champak(英訳)
  贍波加(漢訳)
英語表現でわかるように、もともとの意味は黄金色の花ということ。「黄心樹」のお仲間という気がしてくるではないか。
英訳の名称から見て、インドでは招福的な木と見なされていたに違いなく、仏教でも尊ばれたと考えるべきだろう。挿頭あるいは、祭祀場の飾りに用いる花木だったと見てよかろう。実際、現在の用途にしても香油・香水とのことだし。
ちなみに、ヒンズー教信仰が篤いバリ島で、この花はお供えの定番ではなかろうか。お香[BHAKTA]もあるし。

従って、中国で仏教が重視され続けていれば、上記の漢語は生き残ったかも。しかし、そうはいかないかったから、中国南部ではもっぱら別の呼び方。
「金香木 or 黄蘭」である。

ついでながら、「銀香木 or 白蘭」もある訳で、こちらは"White Champaca or White Sandalwood"と呼ばれる。
オガタマノキは白色花だから、こちらの類似種と言えよう。

ただ、白色花と言っても、花弁の元が次第に紫系紅色に色づいていく。それは倭人好みだったろうし、バナナ風香りを信仰上尊ぶ南の文化が流入すれば、祭祀用の定番化もありそう。
なにせ、常緑樹で赤い実もついていることだし。

(漢詩の参照先) http://www.tspoem.cn/menu/zpxx/song/SI/dw_1.htm

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