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■■■ 「日本の樹木」出鱈目解説 2015.9.4 ■■■

日本的果実の木

柿は日本原産との記載をみかける。化石が出土するからだ。ホー、そんなものかという気にもなるが、すんなりと納得できる話ではない。
なにせ、栽培品種は大陸渡来だというのだから。甘い柿は、日本で生まれた栽培品種という話と混同しているのではないかという気になる。なにせ、礼記「内則」には、瓜と桃李梅杏に加え、柿と梨が登場するのである。(その他に、[けんぽなし],榛[はしばに],楂[;くさぼけ]も。)
一方、日本では、万葉集に全く登場しない。他の果実樹は結構取り上げているのに。

それに、英語名はKakiではなく、Persimmon。つまり、北米にもカキは存在している訳である。ただ、ゴルフクラブ用材以上の話を耳にしたことがないから、極めて小さな実なのだろうが。

カキの枝は折れ易いイメージがあるが、高木になると、幹材は結構硬質である。東南アジアの、それなりに加工できる程度の硬い木に、黒檀があるが、これもその一種であるそうな。温帯樹木のようではあるが、祖先は熱帯の可能性もありそう。台湾にも柿があるし。
ところが、沖縄や北海道には日本的なカキは無い。なんともわかりにくい分布である。
  【柿類】
  白柿 or 香肉果/White sapote・・・非柿(ミカン系)
  黒柿[巧克力布丁果]/Black sapote
  東方柿/Kaki persimmon
  美洲柿/"common" Persimmon
  毛柿 or 台湾柿/Mabola persimmon
  豆柿/Date plum
  油柿 or 洞柿/Morris persimmon
  黒檀/Ebony


ただ、柿を日本原産にしたい気分はわからぬでもない。熱帯は果物だらけだが、温帯になると、限られており、地域の思い入れを感じさせるものになっているからだ。
  中国は桃。ペルシアは柘榴。
  地中海の葡萄。英米の林檎。

それなら、万葉集に柿が間接的に登場していると主張するのも悪くないかも。
大伴家持が「山柿の門」と呼んでいるからだ。山部赤人(or 山上憶良)と柿本人麻呂を指すと考えるのが自然であるが、柿を庭に植えているという意味の姓と考えてもよかろう。
さすれば、柿とは、歌人の象徴ということになるのだろうか。

と言うことなら、柿衞文庫の名前の由来になっている漢詩をご紹介しておく必要があるか。[1829.10.22@剣菱]大宴会に供されたのは台柿と呼ばれたそうだが、希少種なのだろう。その様子が前書きに書かれているが、酒造家の庭に一本植わっているだけの木なので、2ッ目は食べれなかったようだ。
「柿記」(頼山陽 賛+能村竹田 画) (C)小西酒造株式会社
(瀬川照子:「鬼貫と伊丹風俳諧 〜伊丹の文芸活動〜」伊丹歴史探訪 第六章 資料1)
 :
酒間有供柿実者。色如璧。食之甘脆異常。余一大嚼尽之。更求一顆不可復得。
 :

  誰栽碩果杜翁園 記得秋霜流歯根
  口爽更呼藍尾酒 咲吾勝胡孫

    山陽外史襄
    (「伊丹市史 6巻」"伊丹にのこる文化遺産”1970)

日本の柿が世界を風靡したのは、大きい甘柿が手に入らなかったからだろうか。中国にも甘柿の種はあるそうだが、[羅田甜柿,等]一般的なものではなかったのだろう。

ただ、生食もさることながら、あんぽ[天干し]柿、ころ[枯露]柿、釣[吊るし]柿、串柿、と呼ばれる干柿も大人気である。御前白柿@大垣は超有名だが、ピンキリ商品である。
ブランド化が進んでおり、名前は異なるものの、人気品種への集中化が進んでいそう。このことは、古典的な品種は市場に出回らなくなるということ。残念ではあるが、好まれないのだから致し方あるまい。
  【渋柿の品種例】
 [メジャー]平核無、刀根早生
 堂上蜂屋@美濃加茂
 三社@越中富山福光城端
 会津身不知
 市田@伊那高森
 甲州百目
 西条@山陽/山陰

  【甘柿の品種】
 [メジャー]富有、次郎、西村早生、伊豆
 御所(本御所,藤原御所,米田御所,天神御所)
 禅寺丸柿@星宿山王禅寺[天領]
 筆・・・渋もできる。
 赤・・・貴秋、等。

小生のいい加減な推測にすぎぬが、渋抜きは柔らかいので、若年層は次第に敬遠するようになるのではないか。言い換えれば、それだからこそ好む高齢層が存在するということである。高級干し柿はその層には垂涎モノかも知れぬが、若年層の対応は違うかも。

以下はオマケ。

柿のモチーフを使う詩は稀だと思うが、いくつかご参考迄に。・・・

    「睡起」  蘇軾
  葉満庭紅顆秋、樅「沈水度春篝。
  松風夢與故人遇、自駕飛鴻跨九州。


    「寄内」  白居易
  條桑初国ヲ爲別、葉半紅猶未歸。
  不如村婦知時節、解爲田夫秋擣衣。


    「慈恩寺有感 時杓直初逝、居敬方病。」  白居易
  自問有何惆悵事、寺門臨入却遲回。
  李家哭泣元家病、
叶紅時独自来。

    「朝歸書寄元八」  白居易
  進入閤前拜、退就廊下餐。歸來昭國里、人臥馬歇鞍。
  却睡至日午、起坐心浩然。況當好時節、雨後清和天。
  
樹拷A合、王家庭院ェ。瓶中縣酒、牆上終南山。
  獨眠仍獨坐、開襟當風前。禪師與詩客、次第來相看。
  要語連夜語、須眠終日眠。除非奉朝謁、此外無別牽。
  年長身且健、官貧心甚安。幸無急病痛、不至苦飢寒。
  自此聊以適、外縁不能干。唯應靜者信、難爲動者言。
  臺中元侍御、早晩作郎官。未作郎官際、無人相伴閑。


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