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2000.3.2
 
 


「薬漬け医療」への建設的批判が欲しい…


 厚生省の医療行政に対しては、常々「薬漬け医療から脱皮せよ」という意見が目立つ。
 確かに、日本の薬剤費用比率は大きいし、患者にも「薬漬け」への不満が高まっている。しかし、本当に薬剤費削減施策が良い結果をもたらすのか。冷静に判断しないと、将来に禍根を残すことになりかねない。というのは、「薬漬け」の利点もあるからだ。

 抗生物質使用額を見て、「日本人は抗生物質を食べているのか?」と皮肉った欧米人がいるが、結核や肺炎を始めとする感染症由来の死亡率を劇的に下げた功績を忘れてはなるまい。国民の長寿化も、降圧剤投与が寄与している可能性が高い。3分間診療と揶揄されてはいるが、少なくとも、欧米より低コスト医療なのは事実だ。薬使用促進の行政方針は確かに問題があったかもしれないが、全体でいえば長寿実現へは貢献したと考えられ、国民医療費のGDP比率が低いままで、これだけの長寿を実現した国は他に無いのだ。

 とはいえ、かなりの長寿命が実現されてしまった今、今後は医療の品質向上を目指すべき、という意見は正当なものと言えよう。そうなると、薬剤の役割は低下するのだろうか。実はここでの議論が薄すぎる、と筆者には思えるのだ。

 薬剤以外の施策で品質向上を図れば、高額な人件費や施設費用を負担せざるを得まい。医療行為の取捨選択を行い、本当に不可欠なものだけを保険でカバーする体制が不可避となる。ということは、例えば重篤患者への手厚い治療が進む一方、罹患者の多い軽度疾病への対応は個人責任になるかもしれない。後者の面倒まで手厚く見れば、国民医療費は急激に膨張し、財政破綻は避けられまい。薬の開発インセンティブも薄まるから、新薬による便利な治療の導入も遅れる可能性がある。
 一方、従来の薬剤投与型を踏襲するとどうなるか。寝たきり老人の失禁防止薬とか、脳溢血リスク低下薬で、国民の健康ニーズに応えていくことになろう。新技術投入促進のために薬剤費用は嵩む。その分、薬剤以外のサービスは限定的にならざるを得ない。
 ---以上のような議論をすれば、どちらの策も魅力は「ほどほど」に映るだろう。

 重要なことは、医療の生産性向上ではないのか。品質向上要求はわかるが、負担できるコストは有限である。投入費用を増やしたくないのなら、医療の生産性向上による支出低下を図らない限り品質向上は不可能だ。
 技術進歩で生産性の画期的向上が期待できる分野は、医薬(遺伝子治療も特殊投薬システムといえる。)と情報処理技術活用可能な診療分野だ。この分野なら、同じ投入額でも、アウトプットは飛躍的に増大する可能性が高い。薬剤費削減を検討するより、こうした技術で費用削減に注力するのが筋ではないか。


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