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2000.3.18 |
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WTO決裂をどう見るべきか…21世紀を目前にしたWTOの動きには、目が離せない。今後の社会がどうなるかを考える上で最重要と思う。ところが、WTOに関する報道は直近問題が中心だ。「中国の参加」、「農産物自由化」、「鉄鋼ダンピング」といった、市場開放可能性や貿易コンフリクトの解説ばかりが目立つ。こうした、短期的かつ直接的な問題ではなく、本質的な問題を考えるべき時期が来たようだ。というのは、ついに、WTO会議が合意に至らず閉幕したからだ。 米国のシナリオ通りに会議が進まなかったことを喜ぶ人もいる。「大国の横暴通らず」という見方のようだ。 一方、盛大に抗議行動を繰り広げた、「多国間投資協定」反対のNGOも、成果ありと考えているようだ。 確かに、これらの見方にも一理ある。米国の主張は、異なる文化の国にしてみれば傲慢としか思えまい。又、こうした協定ができれば、発展途上国は、持てる国の動きにさらに翻弄されることも間違いない。しかし、それならどうすべきなのか。残念ながら、経済発展可能な、実践的解決案は見当たらない。 米国は確かにグローバル経済の旗手ではあるが、経済をコントロールしている訳ではない。米国型市場主義をいくら否定したところで、代替策がなければ結局同じことになろう。情報通信技術を封鎖しない限り、市場型経済のグローバル化に抗するのは無理だ。技術競争力を持つ強国の動きをいくら牽制しても、時代の流れは変わるまい。歴史の教訓からみれば、こうした外交会議の決裂で被害を被るのは、常に弱小側であって、強者ではない。決裂すれば、タイムテーブル無しに、なし崩し的なルール改訂が進むだけだろう。 米国の動きのポイントをまとめておこう。---ホワイト・ハウスの膨大な公開資料の印象から判断すると、2000年の米国政府の最重要課題は、軍事・安全保障上の問題や、国内課題では無く、産業政策のようだ。戦略分野での基礎科学と先端産業技術でヘゲモニーを握り、この力を武器にして、米国の産業を一挙に興隆させる方針に見える。 WTOでの米国の動きも、この政策の一環に位置付けられていると思われる。1998年4月、クリントン大統領はWTOの会議に出席した。担当にまかせず、ジュネーブに自ら出かけて行くこと自体が、WTO重視政策であることを象徴している。この会議では、コンピュータ・ソフト、音楽、映像、著作物のインターネット取引が、「当面」非関税となった。この動きを見ていると、インターネット経済を世界規模に広げることを、最重要視していそうだ。 よく考えれば、インターネット貿易が重要問題であるのは当然のことだ。この扱い方ひとつで、世界経済の競争ルールが一変するからだ。各国の産業構造が一挙に変わる可能性さえある。 この問題への明確な処方が無ければ、米国型市場主義をいくら否定しても意味は無い。 というのは、インターネット取引には、国境が無いからだ。通信が世界規模というのは当然だが、当事者の国籍自体も不明瞭である。従って、個々の国家が、インターネット上の活動をコントロールするのは極めて難しい。いくら規制の網をかけようとしても、構造上、その網をかいくぐる技術が登場する。 例えば、幣サイトのインターネット上のアドレスはドット・コムという国際名称である。米国で登録したが、日本や欧州でもよかった。登録担当は政府機関ではなく企業法人だ。幣ドット・コムのサーバーは、2000年現在、日本国内のインターネット・ベンチャー内に設置されている。しかし、これを、米国や欧州に即時移設も可能だ。さらに、現地にペーパー・カンパニーを開設し、その法人への権利譲渡もできる。このような状況で、国籍判断が可能だろうか。 生産地表示も、実物たるモノでは意味があるが、デジタル情報に変換されたモノには原理上意味がない。 ネット上の決済機関や、信用保証機関が整備されれば、口座を自由市場内に設置することで、マネーはグローバルに自由に動く。こうした国境を超えた動きを規制できる政府機関の設置は困難と言わざるをえまい。確たる国家間協定がなくても、インターネット取引に参加すれば自動的に「電子商取引自由貿易圏」加盟国になってしまう。インターネット浸透を防ぐのは不可能に近いから、遅かれ速かれ自由市場化の荒波に洗われるのだ。 こうなれば、企業は国籍を無視して動かざるを得まい。ダイムラー・クライスラー、ボーダフォン・マンネスマンといった国境を越えた動きが加速化するのは当然だ。インターネット経済下では、ネットワーク構築で遅れをとれば敗者になりかねないから、グローバル体制は不可欠だ。 要するに、各国政府の今までのような保護主義的産業政策は早晩機能しなくなる。そうなる前に、グローバル・ナンバーワン産業を創出・強化しないと国力は急速に衰退する。しかも、2000年から、代表的ソフトが主要言語を扱えるようバージョンアップを急いでいる。実現すれば「日本語表示で対象顧客は日本人、運営はアイルランドで資本は香港」というネット事業の登場に、なんの障害も無くなる。事業の構想力がありさえすれば、参入は即時可能だ。「非関税障壁」の余地さえ無い。 競争力を持つ国が実質的に多国の経済を支配する図式が見えて来た。強者と弱者の差は益々開く。善悪をいくら議論しても、こうした方向に経済が進んで行くのが現実だ。 インターネット貿易が確立してしまえば、弱体産業を守る施策は、補助金の直接支給以外になくなりかねない。企業の実力も裸になってしまう。 まさに、日本は分水嶺に立っている。インターネット経済でグローバルに戦える産業を育成するつもりなら、国内市場のインターネット化は急務だ。遅れれば、インターネット先進国の企業に市場を奪われるだけだ。 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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