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2000.3.18
 
 


米国政府の情報技術政策をどう見るか…

 米国連邦政府の技術政策を理解するのに最適な99年のレポートの代表版が、情報通信技術畑の方なら誰でもご存知の、2月に公開されたPITACレポートである。(President's Information Technology Advisory Committee Report to the President 2/24/1999 ”Information Technology Research:Investing in Our Future”)
 読後印象は人によって違うが、内容自体の新鮮さを感じる研究者は少ない。しかし、その一方で、衝撃を受けたと語る人が多い。といっても、米国の技術が進んでいることの驚きではない。科学技術の進歩に真摯に取り組もうとしている報告者の強烈な意思が研究者に伝わるのだ。
 このレポートは、極めて率直に現状をまとめている。将来を語っているのだが、ドグマや夢の話しから始まるのでなく、現実を踏まえた実践的なものだ。当然、研究者・技術者が危惧している技術問題も指摘されている。そのため、読者も、今後10年の研究開発プライオリティを考えてしまう。

 この報告書から学ぶべきは、打ち出された施策そのものでなく、その底流たる論理だ。結論を真似ても、社会が違えば、うまくいくとは限るまい。

 なんと言っても、一番重要な事は、成果の見方だ。経済成長の牽引車を情報技術産業と明確に言いきっている。IT政策の結果、情報技術産業が経済成長に貢献した。しかも、民間平均より60パーセント以上高額な給与を得る740万人の労働を生み出したと指摘している。政府の研究開発投資の成果によって、コンピュータ、半導体、ソフトウェア、通信装置産業が強化されたというのだ。(99年6月U.S.Department of Commerce, "The Emerging Digital Enonomy II"の推定値によれば、IT産業カテゴリーは98年のGDPの8%を占め、実質経済成長の35%に寄与した。)---といっても、クリントン・ゴア政策の成功を誉める文脈ではない。高賃金の労働者を生みだす大きな産業をつくっていけるかが21世紀の国力を左右するという発想で、情報通信産業が戦略分野だと淡々と述べているにすぎない。ここが肝要な点だ。高賃金の労働者の大量の雇用を生み出すという観点で情報技術を見るからこそ、社会の支持を得られる。これが、米国の技術政策が奏効している理由でもある。高度な情報機器の開発が進むと、付加価値の高いサービスで雇用が拡大し、経済が拡大するという図式だ。

 当然、今後の繁栄のためには、米国の労働力が情報技術分野で世界一になる必要があると説く。政府機関(労働、教育、商務)、産業界、専門機関、労働側への協力要請といえよう。
 そして、この動きを牽引する研究開発投資を潤沢にし、実行側の研究者・技術者の質量アップを図る施策が今後の成長を左右するという理屈だ。こうした資金の6割が大学での研究支援に充当されれば、自動的に情報技術スキルを持つ労働者需要が増えるという訳だ。

 次に重要なのは、サイエンス・エンジニアリングといった広い分野の技術力と情報技術の相互関係の認識だ。両者は相互に強める関係があり、これが上手く好循環を生むから「黄金時代」が到来したと言いきっている。即ち、科学の最先端へ挑戦すればする程、情報技術も進歩するし、情報技術の進歩が科学をさらに伸ばすということだ。---科学技術の振興もこの観点で進めることになる。好循環になりやすく、インパクトも大きい分野へ傾斜するのは当然の流れといえよう。ということは、物質の基本的性質や高効率クリーン・エネルギーといった日本が一定の地位を占めている分野で、挑戦的な研究が始まることになる。

 以上の観点で考えると、最重要な技術領域はほとんど自明である。ソフトウェア、巨大化に対応できる情報インフラ、ハイエンドのコンピュータ情報処理だ。レポートでは、この分野毎に、課題が指摘され、これに対応するプロジェクトが提案されている。もちろん、膨大な研究開発投資になる。こうした研究開発投資ができなければ、将来を切り開けまいという主張なのだ。
 ここには、直接的なハード研究の言葉が登場しない。そのため、ソフト中心の展開で高度な技術を持つ労働者を生もうという方針に危惧の念を表明する人もいる。ハード面の技術は短期間に身につかないから、長期的には危険な策だと見るのだ。しかし、高給与な労働者の雇用を大幅に増やす点では、ハードには期待できない。ソフト重視にならざるを得ないのだ。


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